Addiction (8)

マルスとケビンマスク・・・二人は、親友であり、互いになくてはならない存在だった。しかし、二
人は同時に、まるで二匹のハリネズミのようだった。互いに、相手を求めながらも、近づくと、
相手を傷つけた。子供っぽい我儘や情緒不安定さを、マルスにサディスティックにぶつけるケ
ビンマスク・・・。そんなケビンマスクに、暴言を吐くマルス・・・。そんな訳で、二人の間には、濃
厚な情交と同時に喧嘩が絶えなかった。

ケビンマスクの実力は、いつの間にか、dMp内で有名になっていた。スパーリングでは、一度
マルスに負けて以来、無敗だった。
「なあ、マルス。俺、今度、MAXマンやテルテルボーイと共に、外で一暴れしてこようと思うんだ
が・・・。」
ある日、ケビンマスクが唐突にマルスに言った。「外」というのは、富士山麓のdMpのアジトの
外の、いわゆる、人間の生活圏のことである。この日のケビンマスクは、妙に興奮していた。
「俺は、興味ねえな。人間を殺るのなんか、赤子の手をひねるより簡単なんだぜ。お前、ストリ
ートファイト時代に逆戻りかよ・・・。」
トレーニング器具を動かしながら、マルスが答えた。
「俺も、人間には興味ねえ。ただ、ダディーが校長をしているヘラクレイス・ファクトリーという超
人養成学校で教育された正義超人たちが、俺たちを迎え撃つつもりでいるらしいんだ。ダディ
ーの親友の、キン肉星大王の息子もいる。俺は、奴らを自分の手で叩きのめしてやりたいん
だ!」
「ヘラクレイス・ファクトリー?」
マルスは、トレーニングの手を止めた。
「ああ。この前の、dMpによる人間界への襲撃に対して、なす術もなかった正義超人の爺さん
達は、何とかしなければと思って、ヘラクレイス・ファクトリーと呼ばれる超人養成学校を設立し
て、若い世代の養成を始めたらしいんだ。こともあろうに、その校長は、あの馬鹿親父って訳
だ。」
「ヘラクレイス・ファクトリー・・・か。」
マルスは、HFというもの自体に、以上に好奇心を覚えた自分が不思議だった。マルスがぼうっ
としていると、ケビンマスクが続けた。
「今日、お前が寝ている間に、先公が話したんだぜ。なあ、マルス。お前、一緒に来ないか?」
「・・・」
「今のところ、一緒に行くの、ここでも並の実力のテルテルボーイとMAXマンだぜ。あんな奴ら
に任せるよりも、俺たち二人で正義超人のガキどもを叩きのめしてやろうぜ。」
「わ、分かった。考えておく。」

マルスは考えた。
dMpの大して強くもない連中の前に、なす術もなかった正義超人のリジェンド・・・そんなもの
に、興味はなかった。しかし、HFなるもの、そして、HFで育った未知の強豪超人・・・そんなも
のが実際に存在すればの話だが・・・への好奇心で一杯になった。
俺は、本当に強い奴らと、ムチャクチャ面白い勝負がしてえ!
HFで育った正義超人がどの程度の実力なのか分かるまでは、何ともいえなかったが、マルス
はこの時、殆どケビンマスクと共に行くつもりだった。しかし、どういう訳か、あっさりと同意する
ことに口惜しさを覚えたため、暫く経ってから返事をするつもりでいた。

その晩、二人はまた喧嘩をした。原因は、些細なことであったのであるが・・・。
「このヘタレ鉄仮面!もう二度と、お前のことは知らねえ!」
マルスがケビンマスクに怒鳴った。
「うるせえ!」
ケビンマスクが鉄製のトレーニング器具を投げた。マルスが避けると、それは岩の壁に当たっ
て壁が一部崩れた。
「出て行け!この居候野郎!テルテルボーイとMAXマンの所でも行っちまえ!」
「ああ、出てってやるとも。この嫉妬野郎!」
ケビンマスクは、入り口の戸を力いっぱい閉めると、外に飛び出して行った。

こんなこと、以前からよくあった。でも、暫くすると、あいつは済まなそうな顔をして戸を叩いてき
た。そんな時、俺は散々悪態をついてやったが、あいつは一途に謝り、そして俺に迫って来
て・・・俺はいつの間にかあいつの術中にはまり、いつしか二人は愛欲を貪っていた・・・。
ケビンマスクが去り、一人部屋に残ったマルスの頭に、何度も繰り返された記憶が蘇る。
あいつは一人では生活できねえ。あいつはすぐに戻ってくる・・・。
マルスがそう思ったにも拘らず、その日は、ケビンマスクは戻らなかった。

「おい、マルス。お前、ケビンと一緒に行かなかったのかよ?」
翌日、トレーニングの最中に、他の仲間からそんなことを聞かれて、マルスは、ケビンマスクが
スレにテルテルボーイとMAXマンと共に、既に外に出て行ったことを知った。

あ、あいつ・・・ついに行っちまったのか・・・。
マルスの中に、後悔の念が涌いてきた。もっとも、二人の生活していた塒を出る際に、ケビンマ
スクが悪態をついたように、テルテルボーイやMAXマンに嫉妬しているわけでは決してなかっ
た。しかし、もしかしてケビンマスクが自分から離れ、自分の手の届かない世界に永遠に行っ
てしまうのではないかという不吉な観念に襲われたのであった。
最高級の血筋を受け継ぎ、生まれながらのチャンピョンの資質を持っているあいつ・・・あの鉄
仮面は、今はヘタレだが、根性をたたきなおして、然るべきトレーニングを受ければ、間違いな
く強くなる。もしかしたら、俺よりも・・・。そして、俺の知らない所で、誰か俺以外の超人と・・・。
そして、その観念は、ケビンマスクが去って何日もの間、マルスに纏わり続けた。

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