Addiction (9)

テルテルボーイとMAXマンが万太郎に負けた。彼らはdMpでは並みの実力程度であったが、
それは、マルスと喧嘩をしていた最中のケビンマスクにとって、dMpに対する不満の捌け口と
なった。

マルス・・・。
ケビンマスクの脳裏に、一人の男が浮かんできた。
dMpに入りたての頃に、家出をして以来、自分より強い相手に出会ったことのなかった俺を破
り、犯した男・・・。かと思いきや、自ら腰に重傷を負ってまで、俺の命を助けた男・・・。そして、
どうしても女と関係が持てなかった自分が、何かに取り付かれたように欲情を覚え、共に愛欲
を貪り合うこととなった男・・・。
あの男は、俺にとっての生まれて初めての友、いや、親友であり、ライバルであり、恩人であ
り、そして、恋人以上の存在だった。3年近く生活をともにしたあの男と離れることなど、今の自
分にできるだろうか・・・。
いや・・・。
しかしケビンマスクは、自分に言い聞かせた。
あの男は、俺に出て行けと言った。そして、俺を追って来なかった。俺のことを散々「ヘタレ」と
抜かしておきながら、あいつ自身、今俺の目の前で無様な負け方をした、こんなヘタレ達が大
きい顔しているdMpの中の、お山の大将に過ぎないのだ。
ケビンマスクは、仮面の下で唇を噛み締め、万太郎の方を向いた。
ダディーは、少しも俺の気持ちを考えてくれなかった・・・。マミーは、ダディーに逆らってまで、
俺を守ってくれなかった・・・。そしてあいつも、俺の本当の友ではなかった・・・。俺は所詮一
人。そして、誰とも群れることなく、一匹狼として生きてやる!

「dMPは俺の考える超人の理想郷ではなかった。」
ケビンマスクは、そう吐き捨てて、dMP脱退を宣言し、万太郎に背を向けて歩き出した。折し
も、外は雨が降り出していた。
あの時と同じだ。俺はあの時、自由を求めて・・・今より少しでも良い世界を求めて、雨の中を
走りに走った。そして、今もまた・・・。
ケビンマスクの足が速まった。そして、彼の行方を知るものはいなくなった。

**********

その半年後、チェック・メイトが万太郎に負けた直後、dMpの内紛により自動起爆装置が作動
した。富士山麓のdMpのアジトにいた500人以上の超人は全滅し、25年のdMPの歴史に終
止符を打ったかに思われた。

「お、俺たちが、一体何をしたというのだ・・・。」
仲間達が無残な肉片と化した地獄絵図の中、一人奇跡的に生き残ったマルスは、呆然と立ち
尽くしていた。周囲には、爆発に伴う煙と、崩れ落ちた岩による砂煙が立ち込めていた。
生きるために相手を倒し、奪い合うのが当たり前のdMpの社会は、いわば、「万人の万人に
よる闘争」状態であり、マルス自身も、非力な子供時代は力による屈辱を味わい続け、24時
間臨戦態勢で生きてきた。しかし、実力ナンバー・ワンの座についたマルスにとって、いつしか
dMpは、居心地の良いものになっていた。「友情」などという概念は、dMpには存在しなかった
が、マルスは仲間達に、恐らくそれに近いものを感じていた。

dMpは、壊滅させられてしまった・・・。「正義超人」のせいで・・・。
正義超人・・・「正義」って、そもそも何なのだ?そして俺たちは、「悪行超人」と言われている
が、俺たちにとっちゃ、生きるためには「善」も「悪」も関係なかった。そう・・・俺が育ったこの世
界は、善悪の彼岸にあった。
俺たちは皆、ただ必死で生きていた。ただそれだけだ。それなのに・・・。

マルスは顔を上げ、崩れた天井から除く空を仰いだ。
俺の仲間は、「正義超人」に壊滅させられた!俺は、こいつらの怨念を晴らさねばならない!
マルスに、怒りが沸々と込み上げてきた。
幼い頃、自分を大事にしてくれていた超人が殺された時、確か、こんな感覚を覚えたことがあ
った。その事件は、自分が生きるために、心の奥底に封印してしまったのだが・・・。
突然、マルスの上半身が異変を起こした。裸だった上半身が、戦闘用のコスチュームをまと
い、背中と腰には、後にスワローテイルと呼ばれる羽が生じた。そして、突如として額の上にあ
った金色の板がマスクと化して、目の上に降りてきた。
その瞬間、マルスの頭部と、生じたばかりのスワローテイルは全て金色色に変色し、マルスの
容貌はすっかり変容した。
お、俺の体が・・・。
マルスは、自分の身体の異変に驚いたが、すぐに、精神さえ今までの状態ではないことに気づ
いた。
どこからとも涌いてくる途轍もない力、憎悪、そして、今までに味わったことのない残忍性・・・。
「ウォー!」
マルスは、天を仰いで絶叫した。その瞬間、崩れかかった天井にさらに亀裂が入り、岩が次々
と落下してきた。
「ケ、こんなもの!」
マルスは、頭上に落下してくる岩を、次々とその拳で砕いた。岩は見事に粉砕され、マルスの
拳からは血が滴っていた。
「フン。」
今や、滴る自らの血さえ、マルスにとっては快感だった。マルスは、自らの血をペロリと舐める
と、ぽっかりと開いた天井から外に飛び出し、そのままどこかへ走り去った。

続く

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