Addiction (7)

思えば、あれから俺たちの、奇妙な同居生活が始まったのだった・・・。
スカーフェイスは、相変わらず携帯電話を握り締めながら、ベッドの上に仰向けに寝転んでい
た。
ち、この俺としたことが、あいつの電話一本のせいで、無駄にダラダラしちまったぜ。
スカーフェイスは、トレーニングでも始めようかと思ったが、その前に、どういう訳かテレビをつ
けてみたくなった。

丁度、ニュースの時間だった。
テレビをつけるなり、本国イギリスでオリンピック優勝パレードを行っているケビンマスクの姿が
目に飛び込んできたので、スカーフェイスは驚いた。時差があるので、生放送ではないが、お
そらく、日本時間で昨日の夜中あたりに行われていたのだろう。
その時、スカーフェイスの目に、凱旋車に乗ったケビンマスクが自分の横に置いているマスク
が写った。
あ・・・あれは、あいつの師匠が残していったマスクだ・・・。あいつ・・・本当は、今は姿をくらまし
てしまったあの師匠と喜びを分かち合いたかったんだろうな・・・。
その時、スカーフェイスの心に、複雑な感情が涌いてきた。
今のあいつの心を占めているのは、あの師匠だけのはずなのに・・・それなのになぜ、あいつ
は俺に電話なんかしてくるんだ!この俺が師匠の代用品なんて、冗談じゃないぜ!
しかし、次の瞬間、また新たな観念が生まれた。
あいつは、あの師匠にも、欲望を抱いているのだろうか?激しく、そして、時にサディスティック
な欲望・・・。いや、あいつはあの師匠とそんな関係を持っていたのだろうか?
そして、その師匠の正体である男と、ケビンマスクの父親との間の実しやかに噂される関係を
思い起こして、苦笑した。
ち、あの馬鹿、親父の昔の愛人に懸想していたのかよ・・・。

**********

dMpでの共同生活は、実質的に、マルスがケビンマスクの世話を焼いている形であった。
「おい、ケビン、起きろ!朝飯だぞ。」
「う、うるせー!」
ケビンマスクは、いつも寝起きが悪い。
ち、ほんと、我儘で根性なしの坊ちゃんだぜ。
マルスは、ケビンマスクの布団に近づき、掛け布団を剥がした。
「うるせー!」
ケビンマスクは、マルスの腕を払いのけようとする。そんなケビンマスクの腕を、掴んで言っ
た。
「てめえ、ウダウダ言ってると、朝飯やんねえぞ。」
ケビンマスクが、寝ぼけ眼でマルスを見た。突然、マルスの腕を掴み返した。目が据わってい
る。そしてそのまま、マルスの腕を引き寄せた。
「・・・」
ケビンマスクは、マルスの腕をさらに引き寄せて、自分の隆起した下腹部に押し付けた。
「お、お前・・・。」
マルスは目を見張った。ケビンマスクの手にさらに力が入り、マルスを自分の横に転がした。
「て、てめえ・・・朝っぱらから、何しやがるんだ!」
「・・・」
ケビンマスクはそのまま、マルスの体を貪り始めた。

その頃dMpでは、人間の生活圏への進出が盛んになり、人間から物資を略奪したり、人間の
技術者を誘拐したりするようになってきた。それに伴って、洞窟をねぐらとしていた原始的な生
活も次第に変容し、トレーニング場や、校舎らしきものが建造された。トレーニングの一環とし
て、学科の授業が行われるようになったのも、その頃からであった。
マルスは、学科の授業が嫌いであった。理解の早いマルスにとって、本を一度読めば分かるこ
とを、くどくどと説明されるのを聞いているのは、苦痛以外の何ものでもなかった。しかし、嫌な
ものを嫌々行うのは、さらに苦痛であったので、マルスは、学科の時間は、勝手に好きな本を
読んだり、あるいは、休息のための時間と割り切ることにしていた。

「おい、マルス、そんな後ろ座るのかよ?」
「お前だって、先公のくだらねえ話聞いてるの嫌だろうが・・・。」
マルスは、読みかけの本を手にして、教室の後方の席に座った。その隣に、ケビンマスクも座
った。
遥か前方で、授業が行われているのをどことなく耳にしながら、マルスは本を読み始めた。し
かし、間もなく、猛烈な睡魔が襲ってくる。
ち、この、隣にいる馬鹿のせいで、夜もろくに眠れなかったばかりか、朝から重労働させられた
もんだから、泥のように眠いぜ・・・。
「ケビン、俺は寝るからな。先公がなんか言ってきたら、起こせよ。」
マルスは本を枕代わりにすると、そのまま机に顔を伏せて、深い眠りに落ちていった。
マ、マルス・・・。
隣に座っているケビンマスクが、そんなマルスを見つめていた。白い、絹のような肌をした背中
に漂う、髪の毛のような長く赤い羽根・・・。その羽根を見ていると、思わず、昨夜のこと、そし
て、今朝のことを思い出す。
ケビンマスクは、思わず、マルスの赤い羽根に手を入れて、そっと指に巻きつけた。マルスは、
気づかないようだ。
こ、こいつ・・・24時間臨戦態勢って言ってるくせに、死んだように爆睡していやがる・・・。
ケビンマスクは、マルスの頭から流れる赤い羽根を掻き上げて、その顔を覗いて見た。
自分と同じ位の年齢であると思われるのに、自分よりも遥かに色々なことを知っていて、大人
であるように感じられるマルスの寝顔は、どこかあどけなさが残っていた。
マ、マルス・・・。
ケビンマスクは、自らも机に突っ伏して、自分の右側にいるマルスの顔を横から見つめてい
た。そして、いつしか深い眠りに落ちていった。

「お前ら、いい加減にしろ!」
その時、教官をやっていた超人の竹刀が飛んできて、二人は目覚めた。周囲で、ひそひそと話
し声がする。
「あいつら、余程激しいことしてるんだろうな。」
「美形同士、ちょっと羨ましいぜ。やべー、想像したら、立ってきちまいやがった・・・。」

「てめえ、何で起こさなかった!」
マルスがケビンに怒鳴った。
「お前だけ寝るなんて、ズルいじゃねえか!」
ケビンが怒鳴り返す。
「そもそも、俺が睡眠不足なのは、誰のせいだと思っていやがるんだ!」
周囲の超人は、そんな二人の言い争いを、面白可笑しく聞いていた。

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