Addiction (5)

ケビンマスクが続けた。
「俺、ダディーとマミーの寝室の前にやってきて、ドアをノックしようかと思ったんだけど、急に
俺、マミーが俺といない時にどんな顔をしているのかちょっと見たくなって、寝室のドアを静かに
少しだけ開けて、中をのぞいてみたんだ。そうしたら、中は薄明かりだけがついていて、男と女
の喘ぎ声が聞こえてきたんだ。目を凝らしてよく見てみると、マスクをとったダディーが、マミー
の上に乗っていた。
 俺は、ダディーがマミーのことも『折檻』しているんだと思って、思わず、マミーを助けようと思
った。『ダディー、やめろ!』と、俺が叫ぼうとした瞬間、二人の会話が聞こえてきた・・・。」

ケビンマスクの脳裏に、その日の悪夢のような記憶が蘇ってきた。

何も纏わないダディーが、ネグリジェの前がすっかりはだけたマミーの上に乗っている。マミー
は、一見苦しそうな顔をしているようだったが、自分が今までに見たことのない表情をしてい
た。
「アリサ、今日は随分生意気だったじゃないか!お前の心は、私よりも、ケビンで一杯なのか
い?」
「あ・・・ん、だって、あなた・・・。」
「これでも、そんな威勢のいいこと言うつもりかな?」
見ると、ダディーがマミーの上で、何やら、腰を激しく動かしていた。
「あ・・・ん、あなた、もう駄目!あなたが一番!愛してるわ・・・。ああ・・・!」
そう言うマミーの顔は、もはや、苦痛と言うよりは、悦楽に満ちていた・・・。

暫く沈黙した後、ケビンマスクは続けた。
「畜生・・・マミーは、俺を売りやがったんだ!昼間、俺を庇うような素振りを見せながら、まさに
その夜にダディーに媚び、ダディーにあんなことをされて、俺が見たことのないような淫乱な顔
しやがって! 
俺は、切れた。どいつもこいつも、もう許せん!そして、何もかも、どうでも良くなった。俺は、両
親の寝室の扉を、わざと大きな音を立てて閉めてやると、雨の降りしきる中、そのまま家を飛
び出した。
その時俺は、確か8歳だった。そこからは、お前の聞いた通り、道ですれ違うやつらを人間、超
人の区別なく、血祭りにあげていった。厳格な両親が困るような悪さをするのが、俺の一番の
生き甲斐だったんだ!だからこそ、dMPからのスカウトも、即座にOKした。ダディーとマミーが
泣いて悲しむ顔が想像できたから・・・。」
「・・・」
マルスは黙って、隣で寝転がっているケビンマスクの手を握った。
「マルス・・・。」
ケビンマスクは一瞬戸惑ったが、さらに続けた。
「でも、俺、そんな悪行の限りを重ねたワルでありながら、どうしてもできなかったことがあるん
だ・・・。家出した俺は、定住先もなく路頭に迷っていたが、俺が荒れ狂ったならず者だったにも
拘らず、なぜか、行く先々で、女達は俺の世話を焼こうとしてきた。女関係も不良の証・・・そう
考えた俺は、文字通り、百人斬りも辞さない勢いで、女の誘い通り、女の家に転がり込んだ。
それは同時に、金もないくせに、今まで召使付の生活をしてきたせいで全く生活能力のない俺
にとって、好都合でもあった。
『きゃあ、お父さんのロビンマスクにそっくりで、かっこいい!ロビンよりも、不良っぽいのがな
おいいわ!』
俺が初めて世話になった女は、俺と初めて会ったとき、コックニー訛の口調でそんなことを口
にした。俺にとっては、ちっとも褒め言葉になっていないんだがな・・・。
 俺と同居生活を始めると、女は、俺に色々と世話を焼いてきた。でも、俺は、色々と世話を焼
かれれば焼かれるほど、女がその見返りとして期待しているものが・・・それが何であるかは、
その時の俺にはまだはっきりとは分からなかったのだが・・・重苦しく感じられてならなかった。
 ある夜、ついに女は俺をベッドに誘ってきた。
 『あんた、初めてなのね。あたしが教えてあげる。あたしの言う通りにしてみて。』
 女は俺に色々と奉仕し、また、俺はそんな女の言葉に従って、あれこれやっていくうちに、す
っかり興奮していた。そして、ついに女の中に入ろうとしていた。
 『ねえ・・・ケビン・・・早く来て!好き・・・。』
 しかし、女がそんなことを言って、俺を中に入れようとした瞬間、俺の中で、何か言い様のな
い嫌悪感が走って、俺は駄目になってしまった・・・。嫌悪感だけでない。突然この女が憎くて、
首を絞めてやりたくさえなった。
 この女も、マミーと同じ売女!男の愛を得たくて、男に媚びる売女なのだ!
 ストリートファイトで、人間も超人も見境なく血祭りに上げてきた俺だったが、さすがに、人間
の女を手にかけることには気が憚った。だから俺は、女の首を絞める代わりに、行為の途中
で、そのまま女を放ったらかして、女の家を飛び出した。
 俺は再び路頭に迷った。すると、今度は別の女が俺に声をかけてきた。
 俺は、再び新しい女の家に転がり込んだ。そして、今度こそは・・・と思い、女に侵入しようとし
た瞬間、また、同じ嫌悪感が襲ってきた。俺は再び、女の家を飛び出した。
 それから俺は、何十回も、同じことを繰り返した。俺は、欲望自体はあった。また、多くの女を
征服することは、ワルの勲章だと思っていた。だから、女の誘いには次々と乗り、場合によって
は、自分から女をナンパして、女の元に転がり込んだ。
俺の世話を焼こうとした女達は、10代後半から30前後まで、娼婦から貴族の令嬢からバツイ
チまで、色々だった。相当な美人も、少なくなかった。それなのに・・・俺は、どうしても最後まで
行けなかった。そして、最後まで行きかけたその瞬間にいつも嫌悪感が走り、俺はその女の元
を去り、もう二度と会うことはなかった・・・。
 俺はもはや、女の誘いに乗ること自体が煩わしくなった。声をかけてくる女達を冷たくあしらっ
て、酒を浴びながら路上生活をし始めた時、dMPの連中に誘われたんだ。」

NEXT(6)

トップへ
戻る



inserted by FC2 system