Addiction (6)

「フ、俺、情けねえよな・・・。」
ケビンマスクが、苦笑いをして、自嘲気味に言った。
「俺、何でこんな風になっちまったんだろうな・・・。両親を困らせるようなワルになってやろうと
思いながらも、結局は、その両親の影響下から逃れられない俺・・・。ダイナスティ家の外の世
界を全く知らずに育ったから、『自由』を求めても、『自由』の使い方も分からず、ここに誘われ
るまで、俺より遥かに弱い連中を相手に、ストリートファイトを繰り返すことしかできなかった
俺・・・。そして、さっき言った通り、俺が女が駄目なのも、多分、ダディーとマミーの姿と重ねて
しまうからに違いないんだ。
俺、時々思うんだ。もし俺が、違った育てられ方をしていたら・・・例えば、自由な野生児みたい
に育っていたら、今とは全然違った俺になっていたんじゃないかって。もっとも、そうしたら、今
ここにお前とこうしているかどうかも分からねえがな。」
「お・・・お前・・・。」
その時、仰向けで寝転んで話をしていたケビンマスクの唇を、マルスが塞いできた。マルスは
ケビンマスクの唇を吸い、そして、舌を絡めてきた。ケビンマスクは、最初は少し戸惑ったが、
やがて、激しくマルスを貪り始めた。ケビンマスクの両方の目尻から、一筋の光るものが流れ
落ちた。

「なあ、ケビン・・・。」
暫く唇を貪り合った後、マルスが言った。
「両親というものを全く知らずに育った俺が、お前の両親との間の葛藤や、そのことに起因する
心の闇が、多少なりとも分かるとも思えないが・・・。でもよ、お前・・・今、俺たち一人一人が置
かれている環境とか状況って、それが、仮に今ある姿とは違った姿であってくれたら・・・なんて
ことは、考えても無意味だし、そもそも、考えちゃいけないと思うぜ。俺たちの置かれている環
境とか状況っていうのは、ある意味、必然なんだぜ。だから、その必然を恨んだり呪ったりする
んじゃなくて、その必然の中で、いかにして生きるかってことに、限られたエネルギーを使わな
ければならないと思うぜ。」
「マルス・・・。」
ケビンマスクは、マルスの首に腕を巻きつけた。
こいつといると、なぜか今までに感じたことのない安心感を覚える。全てを、あるがままの存在
として包み込んでしまうような・・・。そして、俺の知らなかった、本当の『自由』が得られる気が
する・・・。
ケビンマスクは、改めて、マルスの顔を見つめた。
薄暗い部屋に浮かぶマルスの白い顔は、俺が今まで見てきたどの女よりも美しく、それでい
て、今まで俺が会った誰よりも、『強さ』を感じさせる・・・。
その時、マルスが少し微笑んで、再び話し始めた。
「それとよ、お前、野生児みたいな生い立ちにちょっと憧れてるようだが、野生児は野生児で、
結構大変なんだぜ。なんせ、非力な子供の時から、弱肉強食の世界に放り出されちまうから
な・・・。この俺だって、お前が丁度、両親のところでスパルタ教育を受けていた頃、この世界で
生き抜くために、何でもしてきたんだぜ。恥ずかしいことも、屈辱的なことも・・・。」
生きるために、何でもしてきた・・・。恥ずかしいことも、屈辱的なことも・・・。
突然ケビンマスクは、以前、年かさの超人から聞いたことのある話を思い出した。
マルスが子供のころ、飢えた悪行超人たちの欲望の捌け口だったというのは、やはり、本当だ
ったのか・・・。
ケビンマスクは、マルスに直接聞いてみたかったが、どうしても、聞くことはできなかった。

「マ、マルス・・・お前も、色々大変だったんだな・・・。」
代わりにケビンマスクはそう言うと、巻きつけていた腕に力を込めて、マルスの唇を塞いだ。そ
して、マルスの唇、舌を、激しく貪った。
そうしていると、ケビンマスクに再びある欲望が襲ってきた。
おれは、こいつを犯したい・・・。
それは、命の恩人というだけでなく、今や心の友となったマルスに対して抱くには、余りに不謹
慎な欲望だった。しかし、ケビンマスクは、その欲望に抗うことができなかった。

「マルス・・・もう一度、抱かせてくれ・・・。俺、分かったんだ。俺、女は嫌いだけど、お前は好き
だ!だから、お前を抱きたい・・・。」
その時、ケビンマスクは、マルスが腰に負傷をしていたのを思い出した。
「お前、今、仰向けにならない方がいいよな・・・。」
ケビンマスクはそう言って、一度マルスの体を離すと、うつ伏せにしたマルスの背中を、愛撫し
始めた。
「ケ、ケビン・・・。」
マルスは驚いたようだったが、特に拒みはしない。
ケビンマスクは、マルスの肩、背中、臀部と愛撫を繰り返すと、ついにマルスの腰を持ち上げ
て、侵入しようとした。
ケビンマスクが、マルスの中に入っていく。
「ううっ・・・。」
マルスは、苦痛に、呻き声を上げた。冷や汗が滴った。身体が引き裂かれるような痛みに、マ
ルスの思考は麻痺しそうだった。
こんなこと、何年ぶりだろう・・・。俺にとって、忌まわしく、屈辱的で、苦痛を伴う行為でしかなか
ったのに、俺はなぜ、こいつを受け入れてしまったんだ・・・?
やがて、奥まで到達したケビンマスクは、腰を動かし始めた。
「ううっ・・・。」
今度は、内臓が掻き回されるような苦痛に襲われる。
「ううっ、ケビン、痛い・・・。」
「マ、マルス・・・。」
しかし、ケビンマスクは、動きを緩めなかった。それどころか、さらに激しく突いてきた。
その時、マルスの中に、何とも言えない快感が生じてきた。
この俺が・・・スパーリングの勝者であり、命の恩人であるこの俺が、こいつに犯されてい
る・・・。
それは、通常では考えられないことであった。しかし、だからこそ、妙な倒錯した興奮をもたらし
たのだった。
「ケ、ケビン・・・もっと・・・してくれ。」
マルスは言った。
ケビンマスクは、その腰の動きを速めた。その衝撃で、塞がったかに思われたマルスの腰の
傷口が、再び開いた。マルスの腰から、血が流れ出る。
その血を見て、ケビンマスクは、さらに興奮を覚えた。
「ああ・・・ケビン!」
マルスがそう叫ぶと、二人は血まみれになりながら、ほぼ同時に果てた。

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