Addiction (4)

「おい、お前、一体何があったんだ?」
ケビンマスクが果て、暫く二人でくつろいだ後、マルスが尋ねた。
「お、俺、今までも女と何度もこういう状況になりながら、どうしても、一度も侵入することが出来
なかったんだ・・・。」
「・・・」
「なあ、マルス、お前、俺のこと、どんな風に聞いている?」
「お、お前のこと?正義超人のリーダーのロビンマスクの御曹司で、そんな親の、スパルタ教育
の重圧に耐えかねて家出して、ストリートファイトを繰り返していたところを、dMPの連中が目を
つけて、スカウトしたと・・・。」
「そ、そうか・・・。でも俺、単に、スパルタ教育に耐えられなかったという訳じゃねえ!ダディーと
マミーと、そして、俺を取り巻く環境そのものに嫌気がさしたんだ!」
「・・・」
「でも俺、ダディーは大嫌いだが、本当は、マミーは大好きだったんだ・・・。マミーの喜ぶ顔が
見たくて、マミーを悲しませたくなくて、スパルタ教育にも、ずっと我慢してたんだ。でも・・・その
マミーも、俺を裏切りやがった。」
そう言うケビンマスクの目には、いつしか、悲痛さが滲み出ていた。ケビンマスクは、続けた。
「俺はダディーに、毎日過酷なトレーニングと猛勉強を強いられ、幼い頃から、自由な時間が全
くなかった。ダディーや、その取り巻きの連中は、いつも、そんな過酷な生活を、『偉大な正義
超人になるためだ』とか言っていた。『偉大な正義超人』って、一体、何だよ!今から思うと、そ
んな綺麗事なんか糞食らえって感じだが、普通の学校も行かされずに、専用の家庭教師たち
をつけて、世間の同世代の子供たちとも隔離された、ダイナスティ家という、いわば牢獄の中で
のみ育ってきた俺は、そんなとを考える頭さえなかった・・・。
 そんな中、俺の唯一の生き甲斐は、マミーだった・・・。マミーの笑顔、そして、俺を撫でてくれ
る優しい手・・・。でも、そんなマミーさえも、ダディーはいつも俺から取り上げた。せっかく俺とマ
ミーが楽しく話していると感じる間もなく、ダディーは、あたかもマミーが自分だけの所有物であ
るかのように、俺の前からマミーをつれてどこかに行ってしまったり、逆に、『お前は向こうに行
ってなさい』と、その場から俺を追い出してしまうのだった。そんな訳で、俺、マミーが大好きだ
から、唯でさえ嫌いなダディーが余計に嫌いでたまらなかった。」
「・・・」
マルスは黙って聞いていた。両親の記憶のないマルスにとって、自分が、ケビンマスクに何か
適切なことを言ってやることができるとは思えなかった。ケビンマスクは続けた。
「でも、そんなマミーも、自分自身は、一度も俺を怒ったり、勉強しろだのトレーニングしろだの
言ったこともないにも拘らず、ダディーに逆らって、スパルタ教育から俺を守ってくれることは一
度もなかった・・・。トレーニングの合間、マミーが俺を労っていてくれていたところ、ダディーが
やってきて、トレーニングを再会しようとすると、マミーは、ちょっと寂しそうな目で俺を見つめる
だけで、ダディーの命ずる通りに、奥へ引っ込んでしまうのだった。
 俺は時折、そんなマミーに対して、憎たらしいダディー以上に憎しみを覚えてしまうのだった。
大好きだから、余計に憎い・・・。俺よりも、あの、俺が大嫌いなダディーを選び、その言いなり
になっているマミーが!」
「・・・」
マルスは、何も言わずに、ケビンマスクの顔をじっと見た。ケビンマスクは、さらに続けた。
「あの日・・・俺が家を出たあの日のトレーニングは、またとなく、過酷だった。俺が弱音を吐く
と、ダディーは俺を鞭で打った。
『あなた、もう止めて下さい。少しは、ケビンの身にもなってあげて。』
その時、マミーがダディーに言った。
『これは、偉大な超人になるためのトレーニングだ。』
ダディーは、言い放った。
『でもあなた、こんなことしていると、ケビンは壊れてしまいます。』
マミーの言葉は、いつになく強かった。いつも俺に優しくしてくれながら、決して、ダディーに逆ら
ってまで俺を守ってくれたことのないマミーなのに・・・。
『しかし、アリサ・・・。』
『さあ、ケビン、もう休んで、こっちにいらっしゃい。』
そう言ってマミーは、俺を引き寄せてくれたんだ。そうしたら、ダディーは諦めて、行ってしまっ
た。俺は、嬉しくてたまらなかった。マミーが、ダディーから俺を守ってくれた!マミーは、ダディ
ーじゃなくて俺を選んでくれたと、天にも昇る気分だったんだ!」
「そ・・・それで、何故その日に家出をしたんだ?」
マルスが、初めて口を挟んだ。ケビンマスクは続けた。
「俺、その日、余りに嬉しくて、夜、なかなか寝付けなかったんだ。そうしたら、無性にマミーの
顔が見たくなってしまった・・・。でも、俺、物心ついたときから、マミーとは寝室は別で、特に、
自分で歩きまわれるようになってからは、ダディーとマミーの寝室には絶対に来てはならない
と、ダディーに固く命じられていた。ダディーは怒ると、俺を鞭打ちにするので、俺は恐くて、両
親の寝室に近づいたことはなかった。
 で、でも、その日は違ったんだ。昼間の出来事で、マミーはもう俺の味方なんだと、俺は思い
込んでいたんだ。それで俺は、禁忌を犯して、マミーに会いに、両親の寝室に行っちまったん
だ!」
ケビンマスクの声が、興奮してきた。マルスはそんなケビンマスクを、じっと見つめていた。

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