The Reason Why I Care For You (5)

その翌日、俺は再び水汲み場にいた。突然、背後に殺気を感じた。
「ゲへへへ、マルスよう。またいい所で会ったな。」
この間の奴だった。
「俺はお前には用はないと言ったはずだ。」
俺はそいつを無視して、水汲みを続けた。
「ゲへへへ、貴様が用はなくても、俺には用はあるんだぜ。」
そいつはそう言うと、舌なめずりをしながら、俺の肩を掴んだ。どこまでも、下衆な野郎だ。俺
は、そいつの手を振り解こうとした。
「フン、そうは行くか!」
そいつは、力任せに俺を押し倒した。俺は、必死で抵抗した。
「お前、少し手出さない間に、随分生意気になったんだな。バイソンの虎の威を借りているお蔭
かよ?」
俺は相変わらず、抵抗を続ける。しかし、子供の俺の力では、なかなかそいつを振りほどくこと
はできない。そいつはついに、俺の上に跨って、俺のズボンを破いてきた。
「ゲヘヘヘ、マルスよう。パトロンのバイソンに言いつけたって無駄だぜ。」
「・・・」
「なんてったって、奴はもうこの世にはいないんだからな・・・。」
「な、何だと?」
俺はぎょっとした。背筋が寒くなる。
「ゲヘヘヘ、あの野郎、お前を独占していやがるから、最近、何人もの超人から恨みを買って
るんだぜ。そんな訳で、俺を含めた5人で、ずっと、あいつを殺っちまおうと計画していたんだ
ぜ。あいつは、この界隈で一番強いが、こっちが5人がかりで、しかも闇討ちなら、あの野郎を
殺っちまうこと位、訳ないはずだと思ってたぜ。そんな訳で、毎日あいつの通り道で、あいつを
殺る機会がないか、張ってたんだぜ。」
「そ・・・それで、貴様ら、あいつに何しやがったんだ?」
「あの野郎、昨日の深夜、酔っ払って、やけに上機嫌で、千鳥足で、一人で歩いていやがっ
た。おそらく、お前のところで、散々いい思いしてきたんだろうぜ。あいつを張っていた俺たちに
とっちゃ、またとないチャンスだった。」
「・・・」
「俺たち、あいつを見つけて、5人で襲撃してやった・・・。」
奴は、5人がかりでバイソンにしたことを、とうとうと話し始めた。そこから先の言葉は、とても聞
いてられなかった。
「何なら、証拠見せてやってもいいぜ。」
俺が顔を歪めていると、奴はそう言って、2本の角を取り出した。間違いなく、バイソンのもの
だ・・・。俺の背筋が凍る。青ざめた俺の顔を見て、そいつはさらに続けた。
「グヘヘヘ、お前、愛しのパトロンが殺られて、悲しいかよ?」
「・・・」
俺は、唇を噛んで、そいつを睨みつけた。
「まあ、そう怒るな。今、いいこと思いついてやったぜ。お前の愛しのバイソンの野郎の角で、お
前を責めてやるのって、どうよ?バイソンも、あの世で泣いて喜ぶだろうぜ。」
「き、貴様・・・。許さん!」
俺のどこにそんな力があったのだろうか・・・。俺は、そいつの手を振り解くと、俺に跨ったそい
つを突き飛ばした。突き飛ばされた奴は、側の岩に頭を強打した。
「ク・・・クソ、このガキめ!貴様、痛い目に合わせてやらないと、気がすまないようだな。」
奴はそう言って、俺を殴り始めた。俺の頭、顔、腹・・・を、次々と殴っては、蹴りを入れてくる。
「う・・・。」
俺はうめき声を上げる。岩場が、血で染まっていく。
「フン、もうすぐお釈迦だな・・・。だが、まだ生きているうちに、お前の体を楽しませてもらう
ぜ。」
そいつがそう言って、バイソンの角を俺の孔に突き刺そうとしてきた瞬間のことだった。
「ク、クソ・・・なんだ?」
角が奴の手を離れ、俺の両手に飛び込んできた。その時、どこからか、声が聞こえてきた。
「マルス、お前は、間違いなく強くなる・・・。」
あの男・・・バイソンの声だった。
俺は角を両手に握り、奴に飛び掛る。
「う・・・。」
角が奴の両脇腹に刺さり、奴は呻いた。俺は手を休めずに、そいつに蹴りを入れる。
俺の蹴りが決まり、奴は吹っ飛んだ。そしてそのまま、下は溶岩が流れる崖の下に、落ちてい
った。
初めての死闘を終えて、俺の鼓動は高鳴っていた。そいつが、俺がこの世で倒した、初めての
相手だった。

NEXT(6)

トップへ
トップへ
戻る
戻る



inserted by FC2 system