The Reason Why I Care For You (6)

ねぐらに戻った俺は、途方に暮れていた。あいつから奪ったバイソンの角が、床に転がってい
る。
バイソン・・・もうお前は、この世にはいないのか・・・。
俺の胸に、苦しさがこみ上げた。
力こそ全ての世界では、闘いに敗れて命を落とすのは、よくあること・・・。卑劣な闇討ちも、例
外ではない。酔っ払っていながら、夜中に出歩いたあいつが不注意だっただけだ。しかし・・・そ
んな、明日も知れない命だったなら、何故俺は、あいつにもっと優しくしてやれなかったのだろ
うか。あいつが喜ぶ言葉を、もっと言ってやれなかったのだろうか・・・。
そして、俺は、あいつを、食糧の確保や庇護といった合理的な目的のためだけに必要としてい
たということに、疑問を持ち始めた。俺の目から、熱い液体が流れ落ちた。俺が物心がついて
から初めて・・・そして、最後に流した涙だった。
俺は、再びバイソンの角を握り締めた。今、俺にこの哀しみを忘れさせてくれるのは、おそら
く、痛みと快楽だけ・・・。
俺は1本の角を咥え、もう1本を後ろの孔に突き刺す。息苦しさと、痛みが俺を襲う。俺は構わ
ずに、孔に突き刺した角を動かす。
俺は、あの男の好意にこたえてやれず、あいつに何もしてやれなかったろくでなしだ。これは、
俺自身への罰だ。
やがて、妙な快楽が俺を襲ってきた。昇天するような感覚・・・このまま、俺の記憶も思考も、ど
こか、この世の他の世に行ってくれればいい・・・。俺は、頬に涙が伝わるのを感じながら、頭
の中が真っ白になるのを感じた。

翌朝、俺は目覚めた。全身が重く、いつにない疲労感を感じた。このまま・・・どこかに消えてし
まいたい・・・。しかし、俺は、明日のために、生き抜かなければならなかった。俺は、あの男を
心に住ませ続けるという十字架を背負いながら、この過酷な世界を生き抜く自信がなかった。
俺は、その辺りでは一番見晴らしのよい丘の上に、バイソンの角を埋め、上に大きな石を置い
た。そして、俺の心の中でも、バイソンを地中深くに葬り、鍵をかけた。俺が日常を取り戻し、
弱肉強食のこの世界で、生き抜くために・・・。
そして、その日から、俺の戦いの日々が始まった。

**********

スカーフェイスは、横に眠っているバッファローマンの寝顔を見つめていた。忘れたはずの、切
ない記憶が、次々と蘇ってくる。
せんせ、あんたのせいで、俺にとって痛い、とっくの昔に封印した記憶の鍵が開いちまったぜ。
どうしてくれる・・・。
スカーフェイスは、バッファローマンの顔をまじまじと見つめた。その目尻には、烏の足跡のよう
な皴が浮かび、朝になってうっすらと伸びてきた髭には、白髪が混じっていた。
あんたも、だいぶ年取ったんだな。俺があんたの若い頃のファイトを見て、あんたに憧れ始め
たときから・・・。あんた、今、60歳位か・・・。あいつはあの時、20代後半。今生きていれば、4
0歳位だろうか・・・。
しかし、年をとったバッファローマンがこうして自分の横にいることは、スカーフェイスにとって、
また違った意味で、愛しく感じられた。自分が我儘を言っても、冷たくあしらっても、そんな自分
をわが子のように包み込んでくれる存在に他ならなかった。

スカーフェイスの目が、バッファローマンのロングホーンに向けられた。
俺が埋めた2本の角は、こんなところにあったんだな・・・。
スカーフェイスは、懐かしさに、思わず角を撫でた。
スカーフェイスは、自分の右側に寝ているバッファローマンの胸に、そっと頭を預けてみた。こ
いつの胸は、心地よい・・・。そして、バッファローマンの足に、そっと自分の足を絡めた。お互
い、一糸も纏っていないので、バッファローマンの体温が直に感じられる。そして、左手で、ゆっ
くりとバッファローマンの肌をなぞる。胸、首、頬・・・。
その時、バッファローマンが目を覚ました。

「おい、燕ちゃん、朝っぱらからもう欲しいのかよ?」
突然、バッファローマンが目を覚ましたので、スカーフェイスは、驚いた。慌てて、バッファロー
マンの体から自分の体を離した。自分の顔が赤くなるのが分かった。
「まあ、こっちは大歓迎だがな。」
バッファローマンはそう言って、体を反転させて、スカーフェイスの上に乗ってくる。下半身が密
着すると、バッファローマンのものが、既に隆起しているのを感じた。
ち・・・起きやがったぜ・・・。大人しく寝ていれば、この牛も可愛い気があるんだが・・・。
「このエロ牛!いい年こいて、朝から盛ってんじゃねえ!」
スカーフェイスは、バッファローマンの腕をつねった。
「おいおい、燕ちゃん、何すんだよ?」
そう言いながらもバッファローマンは、スカーフェイスの唇に顔を近づけてきた。二人はそのま
ま、熱い口付けをする。

息が苦しくなったので、バッファローマンが顔を離したとき、スカーフェイスが言った。
「なあ、せんせ。あんたの一族って、絶滅したって聞いてるけど、あんた、本当は、弟か子供い
ない?」
「いや、いないはずだ。一族は本当に絶滅したし、俺の子ができたって話、少なくとも、俺が知
る限り聞いたことないぜ。なぜそんなことを聞くのか?」
「そうか・・・。」
スカーフェイスは、それには直接答えずに、天井を見つめた。やがて、左手でバッファローマン
の肩を抱き、右手で、バッファローマンのものを握りながら、悪戯っぽく言った。
「なあ、先生。昨日も言ったけど、人前で、飲みすぎんなよ。悪魔は、24時間臨戦態勢なんだ
ぜ。」
「おいおい、今度は、俺にお説教かよ。今日のお前、何だか変だぜ。」
「フン。」
スカーフェイスは、それには答えずに、右手に力を入れた。
「おいおい、そんなにきつく握るなよ。まだ、半分眠ってんだぜ。」

この時間が、いつまでも終わらないで欲しい・・・スカーフェイスはそう思った。居心地の良さとと
もに、遠い昔に封印したはずの心の穴が口を開いて、そこから溢れ出るものに溺れてしまいそ
うであったが、やがて、襲ってきた快楽に、甘さも苦さも、全て飲み込まれていった。

END

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