The Reason Why I Care For You (3)

それから、男は毎日のように俺のねぐらを訪れた。男は、もはや俺に入れようとはせず、馬鹿
話をしては、時々俺の体を愛撫して、最後に食糧を置いて、夜遅く帰って行った。男は酒を飲
んでいると、やたらとダラダラと滞在することが多かった。酒・・・24時間臨戦態勢を強いられて
いるdMPでは、通常、人前でアルコールは摂取しないのが常識であったが、この男は、俺の前
で平気でくつろいで酒を飲んだ。毎日、そんなことが繰り返された。
「マルス、お前、俺が好きか?」
時折・・・たいてい酒を飲んでほろ酔いのとき、男は俺にそんなことを聞いた。
「・・・」
俺は答えない。時々男は、このような、俺にとってはどうでもいいことを聞いてくる。当時の俺に
とっては、俺のねぐらに侵入する奴が好きか嫌いかは何の意味も持たなかったし、好きだから
どうなる、嫌いだからどうなる、という性質のものでもなかった。正直言って、愛撫されるのはう
ざいし、ダラダラと長居されるのはもっとうざかった。一番都合がいいのは、さっさと目的だけ果
たして、有益な「報酬」を与えてくれる奴・・・。
もっとも、俺はこの男が嫌いな訳ではなかった。こいつは、少なくとも痛いことはしてこないし、
色々な食糧も置いていってくれる・・・。そして、何よりも、dMPで実力者といわれるこの男が、
毎日訪れてくれるおかげで、どうしようもない下衆野郎に襲われずに済んでいるのは間違いな
い。こいつに気に入られていることは、少なくとも、俺にとってはメリットが大きいのだ。
ならば、こいつを少しは喜ばせてやろうか・・・?俺がこいつに、甘えた声で「好き」とでも言った
ら、こいつは喜ぶのだろうか?
生きるためにプライドなど捨てて媚びへつらうこと・・・そんなこと、俺にとってなんともないことだ
った。生理的に嫌悪感を覚える奴や、苦痛を与える変態から、受ける「苦痛」を減らし、「報酬」
を勝ち取るために、媚びへつらったり、サービスをしてやったり、そんなこと、数え切れないほど
やってきた。
しかし・・・どうしてなのか、俺には分からなかった・・・。俺は、そんな奴らよりはるかにましなこ
の男が喜ぶようなことを、何一つできなかった。俺は、結局黙ったままだった。
俺が黙っていると、男は少し寂しそうな顔をした。しかし、再び微笑んで、俺の頭を撫でた。

「よう、マルス、久しぶりだな。最近は、毎晩、バイソンに抱かれてるのかよ?」
ある日の昼間、水汲み場で、かつて何度も聞いた嫌な声が背後からした。そいつは、俺の肩を
手で鷲掴みにした。
「何の用だ?俺はあんたに用はない。とっとと立ち去れ。」
俺は、そいつの手を払いのけてそう言った。大の男にそう言ってのけたことに、俺は自分でも
びっくりした。
「貴様、今日はやけに威勢がいいじゃねえか。バイソンの虎の皮でもかぶってるつもりかよ?
ま、本来なら、今この場で、力づくでお前をモノにしてやるんだが、バイソンの野郎の報復もあ
りうるから、見逃してやるぜ。まあ、せいぜい、今のうちに、バイソンとの情事を楽しんどくんだ
な。」
そういって、そいつは去っていった。
どこまでも下衆な野郎だ。
おれは、そいつに襲われた屈辱の日々を思い出して、唇を噛んだ。

その数日後、男が訪ねてきた時、その体が傷だらけであるのに、俺は驚いた。
「あ、あんた、そ・・・その傷は、一体?」
「あ、いや、ちょっとな・・・。」
「だ、誰かに、襲われたのか?」
「・・・」
男は答えない。
「あんた、とりあえず、そこに掛けてくれ。」
俺は、男を座らせると、救急用具を取り出した。男のあちこちに、鈍器で殴打された痕がある。
「あんた・・・誰かに後ろから凶器で殴れたな・・・。あんたほどの実力者に、一体、何があったん
だ?」
「あ、いや、お前に心配掛けたくなかったんだがな・・・。」
男が漸く、口を開いた。
「ここに来る途中に、闇討ちにあってな・・・。相手は、4〜5人だっただろうか・・・。でも、もう大
丈夫だ。俺が反撃しようとしたら、奴ら、一目散に逃げていきやがった。」
「あんた、相手は誰だかわかっているのか?」
「あ、いや、奴ら、覆面をしていたからな・・・。だが、大体は、予想が付いている。」
「そいつら・・・もしかして、以前俺を襲ってた連中じゃないかと思うんだが・・・。あんた、もしかし
て、俺のことで恨みを買ってるんじゃないか?」
「なに、お前が心配することじゃねえ。この界隈の奴らなら、誰一人、俺に力で叶わないぜ。」
「・・・」
俺は、黙ってこの男の傷に包帯を巻く。
男は、またいつものように夜遅くまで馬鹿話をして、俺のねぐらから帰ろうとした。
「あんた、くれぐれも、闇討ちには気をつけてくれ。」
「ああ、心配するな。」
男は出て行った。

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