At Hospital(After Replacement Matches) (7)

夕方、面会時間が終了し、ブロッケンJrは帰って行った。一人になったジェイドの頭には、ま
た、スカーフェイスのことが占めてきた。
あいつは、今どうしているのだろうか。俺は、こうして皆に見舞いに来てもらっているけど、あい
つ、一人ぼっちなのでは・・・。
ジェイドは、昼間のウルフマンの言葉を思い出す。スカーフェイスは、今日から、○○号室にい
るはずだ。ジェイドはベッドから起き上がり、そっと降りてみる。何とか、歩くことはできそうだ。
ジェイドは、久しぶりに歩くので、足元のおぼつかない足を一歩一歩踏みしめながら、○○号
室に向かって、歩き出した。

ジェイドが、○○号室の扉をたたく。中から返事はない。ジェイドは、扉をそっと開けてみる。
中で寝ている人物は、すぐに扉が開いたのに気づき、扉の方を振り返る。一部包帯に覆われ
ながらも、蜂蜜色の金髪が輝かしい、右腕を包帯で固定した少年が立っている。
ジ・・・ジェイド、貴様、俺に復讐しに来たのか?
振り向いた男の顔は、包帯の他、ギブスのようなもので固定されていたが、包帯の間から、二
つの目がものすごい剣幕でこちらを睨んでいた。しかし、その声は弱々しい。
「ふ、復讐って・・・。スカー、何言ってるんだ。俺は、試合中のことなんて、恨んでいないぜ。そ
れより、お前が心配で・・・。」
「・・・」
スカーフェイスは、相変わらず、ジェイドを睨んでいる。
「スカー、お前、また俺たちと一緒にやり直してくれるよな。」
フン。
スカーフェイスは、ジェイドを少し小馬鹿にしたような表情で、横を向いた。
「あと、スカー、ケ・・・ケビンのこと、許してやってくれ。あいつ、自分の命を助けてくれたお前に
本当に感謝していて、お前の正体を公表したのは、本当に苦しんだ末の決断なんだ。」
き、貴様・・・あの鉄仮面のことなど二度と口にするな!貴様も、あいつの回し者かよ?まあ、
俺も、あいつのことなんぞ好きでもなんでもなかったんだが、リジェンド・ロビンマスクの息子を
助けておけば、後々、利用価値があると思ったから助けてやっただけだがな。
「ス、スカー・・・。俺はそう思わないよ。スカーにとって、ケビンは、大事な仲間だったんだよ。だ
から、放っておけなくて、助けたんでしょ。でも、そんなケビンが・・・結果としてお前を裏切った
から、ショックだった。だから、自分を納得させるために、わざわざあんなこと言ったんだ。自分
にとってケビンは大事な人で、ケビンにとっても、自分は大事な人に違いないという気持ちを、
否定したかったんだ。」
「・・・」
「でもね、これだけは分かってあげて。スカーが、大事にしていたケビンに裏切られて辛かった
のと同じくらい、あるいはそれ以上、ケビンも、辛い思いをしながら恩人のお前を裏切って真実
を公表したんだってことを・・・。」
そう言いながらジェイドは、自分が到底叶わないスカーフェイスとケビンマスクとの間の絆に、
以前感じた一抹の切なさを感じた。
ケ・・・。自分の心の闇にも気づかずに、まんまと大して真実味もない嘘に騙される頭の弱い
優等生の坊やが、よく言うぜ。
「スカー、それって、どういうことだ?」
フン、お前は、養父母を殺されたことに対して当然起こりうる感情、すなわち、恨みや憎しみを
抑圧して、優等生ぶって、養父母の教えに従って超人の力をお前の敵を含む人間のために役
立てようと決意した。しかし、お前は自分の中に当然生じていた恨みや憎しみといった負の感
情と対決せずに、それを抑圧しただけだったから、そのような負の感情が、俺の口から出まか
せを契機に、師匠であるブロッケンJrに向いてしまったんだぜ。
「・・・」
俺は、HFの同級生だったとき、お前から、お前の生い立ちの話を聞いて、お前の中の抑圧さ
れた負の感情に気づいていた。だから、あの時、あの試合で、お前が塞いだつもりになってい
る傷口を広げて、負の感情を露出してやったまでだ。
ジェイドは唇をかみ締めて、黙って聞いていたが、やがて口を開いた。
「スカー、確かにお前の言う通りかもしれない。だが、お蔭で、あの闘いを通じて、レーラとの絆
を深められたような気がする。」
ケ、今度は惚気かよ。
「ねえ、スカー。だから俺、お前が500人の仲間を失って、正義超人に復讐しようとしていたの
も、分かる気がする。でもあの事件、dMPの内紛によるものだから、本当は万太郎先輩のせ
いじゃないと思うよ。」
ケ、貴様、俺に説教こきに来たのかよ?なら、とっとと帰りやがれ。
「あ、いや、俺は、スカーのことが心配で・・・。あと、スカー、今、一人ぼっちじゃないかなと思っ
て・・・。とりあえず、まだ重態みたいだし、今日はこれで失礼するよ。」
ジェイドは、スカーフェイスの病室を去った。

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