At Hospital(After Replacement Matches) (5)

「ケ、ケビン・・・。」
ドアを開けて入ってきたその人物に、ジェイドとブロッケンJrは驚いた。
「ジェイド・・・。やはり俺は、お前に直接謝らなければと思って・・・。」
ケビンマスクは言った。右手には、大きな花束を持っている。
「オ、俺がスカーフェイスの正体を公表するのが遅かったばかりに、ジェイド・・・お前をこんな酷
い目に合わせてしまった・・・。」
「ケ、ケビン、何を言うんだ。お前は悪くはないと、ミートも言ってただろ。」
ブロッケンJrが言った。
「そうですよ。それに、俺・・・スカーフェイスと闘ったこと、全然公開していません。この通り、腕
も元通りになりそうですし・・・。」
「ジ・・・ジェイド。」
「でも、ケビンさんが来てくれてよかった!俺、昨日、決勝戦のVTR見ていて、ケビンさんにどう
しても伝えたいことがあったのです。」
「・・・」
「あ、あの、試合中にスカーフェイスが、ケビンさんを助けたのはケビンさんを救いたかったか
らではなくて、ケビンさんに恩を売るためだったって言ってたでしょ。俺、あの言葉は、スカーが
後付で言っただけで、本当は違うと思うんです。」
「・・・」
ケビンは黙って聞いている。その表情は、マスクのせいで伺うことはできない。
「あれは、スカーが試合中に悪ぶって、あんなこと言っただけ。dMP時代にケビンさんを助けた
のは、本当は、ただケビンさんを助けずにはいられなかっただけだと思うんです。」
「・・・」
「だから、折角この病院にいらしたなら、昔の仲間のスカーを見舞ってあげて下さい!」
「ジェイド、お前、何を言い出すんだ?」
ブロッケンJrは、弟子の予想外の発言に、少々戸惑った。
ケビンマスクは暫く沈黙していたが、やがて、口を開いた。
「マルスは、俺に恩を売るつもりではなく、ただ本当に助けたくて助けてくれた・・・確かに、そう
かも知れない・・・。でも俺は、そんなマルスを裏切った。今更、マルスに合わせる顔などない。」
「まあ、あれは、俺がお前をそそのかしたような面もあるからな・・・。」
ブロッケンJrが言った。
「それに、あいつは見舞いなど、望んでいない。俺があいつの見舞いに行くこと・・・それは、あ
いつにとって、最高の屈辱であるはずだ・・・。」
「で、でも、行ってあげてください。あいつは、500人の仲間を失って、今、一人ぼっちなので
す。レーラ、あいつ、どの病室にいるのですか?」
「スカーフェイスは、まだICUにいると聞いている。近親者以外、面会謝絶だ。ただ、明日には
一般病棟に移るらしいぞ。まだ当分、自力では歩けないがな・・・。」
「そ、それは残念だ。俺は今夜、日本を発つ。」
ケビンマスクが言った。
「日本を発ってどこへ?ケビンさんも、HFの仲間にはならないのですか?」
ジェイドが尋ねる。
「ふ、俺はもともと一匹狼。これからもそうだ。仲間とつるむのは趣味じゃないんでね。マルスだ
って、そのはずだ。」
「ケビンさん・・・。」
ケビンマスクは、豪華な花束を置いて、ジェイドの病室を出て行った。

ケビンマスクとスカーフェイス・・・お互い、相手のことを大事に思っている仲間同士なのに・・・。
二人は、上手く和解してくれるだろうか・・・。
ケビンマスクが去ったあと、ジェイドは思いをめぐらせた。遠くを見つめるその表情は、哀しみ
の色を帯びていた。
あの二人は、dMP時代に、同じ釜の飯を食った仲間で・・・。あの二人は、俺たちが知らない時
を、青春を、共有してきた。あの二人は、俺たちが知りえない、深い絆で結ばれている・・・。
そう思ったとき、ジェイドは、不思議と切なくなった。スカーフェイスとケビンマスクの間に、自分
はとても入ることができないかもしれない・・・そう思うと、自分が取り残されたような、切なさが
溢れてきた。スカーフェイスとケビンマスク・・・この二人の関係を考えると、心がかき乱されるよ
うだ。
しかし、ジェイドにはその理由が分からなかった。

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