At Hospital(After Replacement Matches) (2)

しばらくすると、凄まじい吐き気は治まったが、麻酔が完全に切れたため、それに代わって、凄
まじい痛みがジェイドの右腕の付け根を中心に襲った。
う〜。
あまりの痛みに、言葉さえ出ない。この右手は、一昨日スカーフェイスによってもぎ取られたも
の。現在では縫合されているものの、一度もぎ取られた場所から生じる痛みは、筆舌に尽くし
がたいものであった。
ジェイドが一人うめいていると、看護士がやってきた。
「麻酔が切れたんですね。痛み止めの注射をします。」
看護士に注射されて、10分くらいすると、心持ち、痛みが軽減された気がしてきた。それでも、
壮絶な痛みは、完全に消し去ることはできない。

30分位して、ブロッケンJrが戻ってきた。
「ほらジェイド、決勝戦の放送を録画したVTRを借りてきたぞ。見たければ、言ってくれ。まあ、
体を休めることが何より大事だから、無理にとは言わないが・・・。」
ジェイドの体は、良好からは程遠かったが、それでも、ベッドに寝そべったままVTRを見るの
は、悪い気がしなかった。かえって、痛みが紛れるかもしれない。
レーラ、早速見せてもらってもいいですか。
ジェイドは言った。

ブロッケンJrが、ビデオデッキを回した。
画像は、両選手の入場のシーンから始まる。スカーフェイスが、黒いマントに身を包み、荘厳な
クラシックの旋律に乗って登場する。
スカー・・・。
ジェイドは、不覚にも、そんなスカーフェイスの姿に見とれていた。
こいつが、俺を裏切ったのか・・・?こいつは、悪行超人だったのか・・・?
ジェイドは、食い入るように、決勝戦を見た。

途中、ドクロの徽章が涙を流すシーンや、万太郎がベル赤を放つシーンが流された。
やはり、レーラの言ったとおり、俺が「怨念」を送っていたというのか・・・?
しかし、スカーフェイスの正体が明かされても、不思議とスカーフェイスに憎しみを覚えない自
分が不思議であった。
スカーフェイスの最後は、無残であった。ジェイドは、見ていられずに、思わず顔を背けた。

VTRを最後まで見終わると、側にいたブロッケンJrが言った。
「どうだ、色々分かっただろ。」
ジェイドは暫く呆然としていたが、答えた。
はい。レーラ、スカーのやつ、かなり酷い重傷を負ったようですが、大丈夫なのですか?
ジェイドの脳裏に、おそらく顔面の骨が粉々に
なり、腰が海老のように曲がったスカーフェイスの姿が浮かんできた。
「やつも今、この超人病院に搬送されてきて、おそらく、手術でも受けているだろう。」
・・・
ジェイドが、呆然としているので、ブロッケンJrは続けた。
「何、心配すんな。まだ、当分は自力では動けまい。それに、自力で動けるようになったら、超
人委員会の監視付きの、鉄格子のはめられた病室に移動するはずだから、お前に危害を加
えたり、悪事を働いたりはできないはずだ。」
・・・とすると、命に別状はなかったのですね!
ジェイドの顔が、やけに嬉しそうだった。ブロッケンJrは、弟子の予想外の反応に、少々驚い
た。
ね、レーラ、元気になったら、スカーは、俺たちの仲間に戻れるのでしょうか?
「ジェイド・・・お前、何言ってるんだ・・・。やつは、dMPの再興を企んでいる、筋金入りの悪行
超人だぞ。」
レーラ、スカーって、本当に根っからのワルなんでしょうか?dMP時代にケビンを助けたこと
について、本人は、恩を売って利用するためだなんて言ってましたが、それって、後付じゃない
でしょうか。本当は、純粋にケビンを助けたくて、体が勝手に動いたんじゃないかって、俺は、
そう思えてならないのです。dMPだって、きっと、友情とか、絆とか、あったんだと思いますよ。
だから、万太郎先輩がチェックメイトを破ったのがきっかけとなって、500人の仲間を一気に失
ったスカーフェイスは、正義超人に復讐しようとしたのです。まあ、あの件は、どう考えてもdMP
内の内紛が原因で、逆恨みされてる万太郎先輩は、たまったもんじゃないでしょうが・・・。
「ジェイド、お前、随分変わっているな・・・。あいつは、お前の腕をもぎ取って、お前が今こうして
苦しんでいる羽目にした、張本人なんだぜ。まあ、お前、疲れているんだろう。ゆっくり休め。」
ブロッケンJrはそう言うと、病室を暗くして、席を外した。

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