Der Tod in Raptus? (8)

しかし、私の眩暈は一向に治まらなかった。夕方、少年はホテルの従業員を呼んできて、2人
の従業員の肩にもたれながら、私は客室に戻った。
客室に入ると、熱っぽくてたまらなかったので、すぐにマスクを取った。その際、髪の毛が大量
に抜けたのに、ぎょっとした。
ベッドの上に横になりながら、辛うじてテレビのリモコンをとって、ニュースをつけてみた。やは
り、この日から、××国経由での宇宙への渡航が可能になったらしい。しかし、暫くは相当な混
雑が見込まれるという。
あと、何日、あの少年はこの星にいるのだろうか。しかし、この日は、そんなことを考えている
以上にどうしようもなく気分が悪かったので、間もなくそのまま寝てしまった。

翌朝は、いくらか気分がましになっていた。でも、相変わらず眩暈はする。何とか、食堂で朝食
をとったが、さすがにビーチに出る気分にはなれない。
私は、少年の一家が今日もビーチに出たのを確認すると、そのままホテルのロビーのソファー
で、ぐったりとしていた。
夕方になると、眩暈が激しくなり、吐き気もしてきた。私は、夕食をとることもできずに、部屋に
戻った。

そんな状態が、3日ほど続いた。ただし、私の体調は、次第に悪化するばかりであった。昨日
は、吐血をした。髪の毛は、もう殆どないのではないかと思われる。幸か不幸か、人前ではマ
スクを被っているため、無くなった髪の毛も、ドス黒い顔色も、誰にも気づかれることがないの
だが。

あと2日でここに来て4週間になるという朝、遂に、その日が訪れた。
朝食の後・・・とは言っても、私はもう殆ど何も口にすることができないのであるが・・・、私がい
つものようにロビーのソファーでぐったりしていると、あの家族が、大きな荷物を抱えて現れた。
フロントで、チェックアウトをしているようだ。
「やっと、帰れるな。」
父親が、笑いながら言っている。
ふと、少年がこちらを見ている。その目は、何かを言いたげであった。
チェックアウトを済ませると、あの家族は、ホテルの玄関を出て行こうとしていた。

私のどこにそんな力が残っていたのだろう。私は、最後の力を振り絞って、あの家族を追っ
た。あの家族は、海路で××国に向かうのだろうか?船着場に向かって、白い砂浜を歩いて
いく。
砂浜が、今の私にとってはとてつもなく重く感じられる。まるで、何十キロもの錘を両足につけ
て歩かされているようだ。それでも、私は追っていく。
あの家族が、船着場に到着した。そして、船に乗り込んでいく。

その時、あの少年が再び私のほうを振り向いた。少年は、微笑んでいる。そして、私に手を振
る。私も、重い右手を上げて、手を振った。
やがて、船が出港する。少年は、いつまでもこちらを見ている。私は、もう殆ど立っていることも
できない状態だったが、少年を最後まで見失うまいと、何とか気力だけで立っている。
やがて、船が見えなくなった。突然、私はまた血を吐いた。どうしようもない眩暈に襲われる。
目の前が真っ暗になる。私はその場に倒れる。
意識がなくなり、私は真っ暗なトンネルを抜けて、どこか遠い世界に行くのを感じる。後ろを振
り向くと、マスクも服も迷彩柄の男が、砂浜にうつ伏せに倒れているのが見えた。

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