Der Tod in Raptus? (7)

あの親子は、翌日の朝食には現れた。私は、とりあえず、安堵に胸を撫で下ろす。
それから、1週間ほど、同じような生活が続いた。 

1週間経ったある朝、ホテルの滞在客が、やけに騒がしかった。
「なんでも、××国経由で、この星から出られるようになったらしい。」
「これでようやく、2週間続いた監禁状態から開放されるな。」
ロビーで、男達がそんな会話をしている。
私の頭に、一抹の不安がよぎった。
ラプツス星からの出星が可能になったとすると、もう、あの親子は行ってしまうのだろうか・・・。
私は、もうあの少年に会うことができないのだろうか・・・。

その日、あの少年は再び一人でビーチに現れた。私は、これが、私が少年と二人きりで過ごせ
る最後の時になる可能性が限りなく高いと思い、まるで人生の一大勝負を賭けたかのような気
持ちで、少年の後を追った。
ビーチにたどり着いたとき、突然眩暈がした。我ながら驚きであったが、私はその場に、砂浜
の上に倒れてしまった。意識が朦朧とする。

ふと目を開けると、あの少年がこちらに歩いてくる。
「おじさん、大丈夫?」
私のそばに近づくと、少年が声をかけてくれた。
「ああ・・・。ちょっと眩暈がした。」
「おじさん、横になってた方がいいよ。ちょっと待っててね!」
少年はそう言って、ホテルに向かって駆け出した。
5分くらいすると、少年が戻ってきた。ペットボトルと、濡れたタオルを持っている。
「おじさん、水飲める?あと、これ。頭の上に乗せておくよ。」
少年はそう言って、私の額の上によく冷やした濡れタオルを乗せた。タオルがひんやりと冷た
い。しかし、それ以上に、少年の手がタオル越しに私の額に触れていることに、胸の鼓動が高
鳴った。
「おじさん、ちょっと熱っぽいかもね。水、飲めたら飲んでみて。」
少年は、ペットボトルの蓋を開けて、私に水を渡す。私は、少年の好意に甘えて、水を何口か
飲んだ。
「有難う。お前、名前、何て言うんだ?」
私は尋ねた。我ながら、よくこんな勇気が出たものだと思う。
「僕、クノッヒェンって言うんだよ。」
『ボーン』ではないらしい。しかし、"Knochen"は、確か『骨』を意味する言葉だったはずだ。
「お前、もしかして、ドクロ星の出身なのか?」
「そうだよ。よく分かったね。」
少年は微笑んだ。私は、暫く少年の顔を間近で見つめていた。
突然、少年が言った。
「ねえ、おじさん、前から気になってたんだけど、僕の顔に何か付いてる?おじさん、前から僕
のこと気にしてるなと思って・・・。」
私はぎょっとした。私の邪な欲望が、見透かされていたのか・・・。
「あ、いや、昔、お前によく似た子供と拘ったことがあってね。その子は、親に虐待された不幸
な子供だった。その子も、ドクロ星の出身だった・・・。お前の顔を見ていると、その子を思い出
してならなかった。でも、お前はご両親と幸せに暮らしているようだね。」
私は答えた。本心を全てさらけ出したわけではないが、嘘は言っていない。
「そ、そうなんだ・・・。僕に似た、そんな可愛そうな子がいたんだ・・・。」
猫のような妖艶な少年の瞳に、哀しみの色が宿った。
暫く沈黙が続いた後、最初に言葉を発したのは少年のほうだった。
「ねえ、おじさん、その子のこと好きだった?」
その言葉に、私は驚きの余り、ペットボトルを落としそうになった。この子はいきなり、何を言い
出すのか。
あいつは・・・ボーン・コールドは、どうしようもないワルだった。しかし、あいつを最初に捕えたと
き、釣り上がった猫のような目に、どこか哀しみを感じずにはいられなかった。許されないよう
な罪を犯していながらも、どこか、気にかけてやらずにはいられない存在だった。
KDDチャレンジの際に、あいつの父親が現れ、あいつの不幸な幼年時代が明らかになった
時、その思いは、ますます強くなった。
「そうかも、知れないな。」
私は答えた。
少年はいきなり、横になっている私の手を握ってきた。
「おじさんと会ったの、何かの縁かも知れないね。気分よくなるまで、僕が見ててあげるよ。」
私は、本当に、心臓が止まりそうだった。この時間が、永遠に続いて欲しい・・・。このまま、本
当に心臓が止まっても構わない・・・そう思えてならなかった。

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