Der Tod in Raptus? (1)

20年以上連れ添ったあいつと別れて、10年振りに束の間の再会を得た後、永遠の別れを迎
えてから、もう数年経つ。あいつも、理論的には、リボーンダイヤモンドで復活した可能性を期
待できないわけではないのだが、その後、何処にも姿を現してはいない。
あいつとの永遠の別れのきっかけとなったKDDチャレンジ後、私は暫くキン肉星に留まり、王
政の補佐をしていた。もっとも、普段は私の書斎・・・マッスルガム宮殿で昔、60年前に私の子
供部屋だった部屋だ・・・に籠り、表舞台に顔を出すことはめったになかったのだが・・・。

私がこうして一つのところに留まっているのは、70年近い私の人生において極めて稀な現象
であった。いや、むしろ、生まれてから家出するまでの約10年間を除くと、私は、人生の殆ど
の期間、宇宙を放浪していた。もっとも、アンタッチャブル時代の20年間は、宇宙の放浪それ
自体が仕事であり、私の任務なのであったが・・・。
こうして60年ぶりに生まれ故郷に腰を落ち着けるのも、不思議な気分だ。
もっとも、この宮殿に滞在するのは、正確には、60年ぶりではない。35年前、弟が王位を継
承する際には、その前後に新王の兄として、数ヶ月間滞在していた。また、15年前に甥の万太
郎が生まれた際・・・その頃はまさにアンタッチャブルで多忙な日々を送っていたが・・・、休暇を
とって、1週間ほど滞在した。そして、母の死後・・・残念ながら死に目に会うことはできなかった
が・・・、少しだけここに滞在した。しかし、ここが自分がこれからずっといることになる場所と意
識してここに留まった、まさに、ここを去ろうとした時から60年も経った時なのであった。
私は、どうしても必要と思われる時以外は、王政への助言は控えていたが、弟とたわいもない
会話をすることは多かったし、甥の万太郎の相手もよくした。万太郎は、実質初めて会う私とい
う人物に非常に興味を持っていたし、彼から、勉強や、格闘技の質問を受けることもあった。
子供のいない私にとって、万太郎は、初めての自分の子供のような気がしてならなかった。も
っとも、万太郎は、私がキン肉星に腰を落ち着けたときには、すでに、その生活の舞台の殆ど
を地球に移していたのだが・・・。
ここに落ち着き、一族に囲まれて生活するのも悪くはない・・・。私は、そう思った。あるいは、
20年以上の間、あいつと放浪した宇宙空間に、再び足を踏み入れることに、どこか気がひける
ところがあったのかもしれない。
いずれにせよ、私は、本当に、キン肉星で腰を落ち着けるつもりだったのだ・・・。あの時、あの
光景を目にするまでは・・・。

ある日の夕方、私は宮殿の周りを散策していた。
少し離れた先を、見知らぬ風采の男が歩いている。その容貌から、キン肉星の超人ではない
ことは明らかだった。リュックサックを肩にかけた上半身裸のその男は、私の前を大股で闊歩
していく。男の年齢は、25歳位だろうか。
突然私は、家出してから王位争奪戦で弟の前に姿を現す前の自分の姿を思い出す。あの頃、
丁度20代だったあの頃、私はいわゆる「悪行」にもうんざりして、遠い星星を転々としていた。
あの頃の私は、いろいろな意味で若かった・・・。
突然、私の中で何かが動き出した。この場所を飛び立ち、遠い星星を巡りたいという激しい衝
動・・・かつて20代の頃の私が抱いていた衝動が、私の中で余りにも鮮明に蘇ってきた。
旅への誘い・・・この、どうしようもない発作的な衝動に襲われて、私は急遽、自分の書斎に戻
った。

スケジュール表を見ると、少なくともこの先数ヶ月の間は、大きな公務はない。何か、私がいな
ければならない事態が発生したら、メールでやりとりすればよい。いや、そのような事態には、
できるだけなっては欲しくないのであるが・・・。
私は、旅に必要な簡単な荷物を作ると、執事に数ヶ月間旅に出る旨を伝え、キン肉星を後にし
た。

NEXT(2)

トップへ
トップへ
戻る
戻る



inserted by FC2 system