My Favorite Pupil〜Wanna make love to a man tonight who
doesn't tell me to go to bed with him tonight〜 (5)

「そ、そうだったのですか。レーラには大変申し訳ないことをしてしまいました。いえ、申し訳ない
ことをしっ放しで、顔も向けられません・・・。」
青ざめた顔で、ジェイドが言った。
「お前、師匠に反発心を覚えたとか、なんか嫌悪感を覚えたとか、そういうことはないのか?誰
にも言わないから、俺だけに、本当の気持ちを教えてくれないか?」
「と、とんでもない、レーラは俺の大切なレーラです。嫌いどころか、尊敬しているし、俺にとって
この世で一番大切な存在です。」
「じゃあお前、何であいつを避けてるんだ?」
「そ、それは・・・。俺、入院中に、俺の意志の弱さから、恐らくレーラが望んでいないようなこと
をしてしまいました。俺は、穢れてしまったんです・・・。だから、レーラに顔向けができなかっ
た・・・。でも俺は、その、俺を穢した相手を、不思議と憎むことが出来ず、そいつが俺を穢した
ことよりも、そいつがどこかに行ってしまったことが悲しくてたまらないんです。こ、こんなこと、
レーラに言えるわけもありません。」
「そ、そうか。お前、その『穢れた』って、何があったか聞くつもりはないが、別に恥ずべきことだ
と思う必要はないんじゃないか?お堅い聖職者の先生じゃあるまいし・・・。」
「で、でも、俺、本当に穢れてしまったんです・・・。俺は、以前の俺ではないんです・・・。」
そう言うジェイドの翡翠色の瞳には、悲痛さが漂っていた。その瞳を潤ませながら、ジェイドは
続けた。
「お、俺、自分が穢れてから、気づいてしまったんです。俺は、実は、レーラにいやらしい欲望を
抱いていたということに・・・。あの日、俺がされたことを、俺は本当は、ずっと前からレーラにし
たくてたまらなかったのです。それなのに、俺は以前は無邪気にレーラに頬擦りをしたり、平気
で暖炉の前でくっついて一緒に寝たりしていた・・・。あの日以来、レーラに頬擦りをしたり、お
休みのキスをしたり、くっついて一緒に寝ることを想像すると、俺の中の黒い欲望が渦舞い
て・・・。先生、俺、悪魔になってしまったかも知れません。もう、レーラの傍にいる資格はないの
かも・・・。」
ジェイドは、今にも泣き出しそうだった。
「お、俺、レーラと汚らわしいことをする夢まで見てしまったんです。だから、俺、レーラと目を合
わせるのが恐くて・・・。レーラの手にちょっとでも触れるのが恐くて・・・。先生、俺、どうしたらい
いんでしょう?しかも、俺を穢したあいつを想いながら、同時にレーラと汚らわしいことをする妄
想を抱く俺は、本当に、どうしようもない穢れた悪魔です!」
「そうか・・・。」
話を聞いていたバッファローマンは、ジェイドの悲痛な気持ちは十分に飲み込みながらも、自
分にとっては別になんとも思わないことを、こうまで悩みぬいているこの生徒の純粋さが、ある
意味可笑しくてたまらなかった。バッファローマンは、微笑んで言った。
「お前、別にお前が感じていることは、異常でもなければ、悪というわけでもないぜ。普通のヤ
ツ、誰もが当たり前に感じ得る感情だぜ。」
ジェイドは、顔を赤くしてうつむいたまま、黙っている。
「要するに、お前は今、師匠のことも好きだし、燕のことも好きなんだろ。ただそれだけじゃない
か。それのどこが悪いんだ?」
「と、とんでもありません。スカーフェイスは、また悪行超人に戻ってしまったかもしれないんだ
し、第一、男ですよ。レーラは、好きというよりは、大切な師匠であって、親代わりであって、汚
らわしい感情の対象になりません。」
「そうか?別に悪魔が好きだって、男が好きだっていいじゃないか。それの何が悪いんだ。あ
と、親にある種の性的欲望を抱いてしまうのは、エディプスコンプレックスといって、お前さんくら
いの年齢の子供には、よくあることなんだぜ。だから、お前が親代わりの師匠にそういう感情を
抱くことは、別におかしいことでもなんでもないし、それに、もっと言ってしまえば、お前ら実の親
子じゃないんだから、本当に好きでも構わないんじゃないか?」
「そ、そうなんですか?」
ジェイドは、バッファローマンの余りに世間の通念を超越した発言に、返す言葉がなかった。
バッファローマンは、微笑んで、ジェイドの頭を撫でた。
「お前は、本当に純情なんだな。まあ、お前の悩みは、時間が経てば解決するぜ。何かあった
ら、また俺に相談してくれ。師匠には内緒にしとくからな。」
そして、二人はコーヒーとココアを飲み干すと、喫茶店を出た。

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