What's Your Poison? (2)

それは、ジェイドが12〜13歳の頃の出来事であった。12〜13歳といったのは、孤児である
ジェイドの正確な年齢は、誰にも分からないからである。
ジェイドと出会うまでの20年間、重度のアルコール依存症であったブロッケンJrは、ジェイドと
出会って生き甲斐を見つけることにより、アルコールの量自体は減った。しかし、長年アルコー
ルに依存していた体が、アルコールを必要としたため、夕食の時には水代わりにワインを飲ん
でいた。もともとアルコールには強い体質のため、それでも、酔い乱れることはめったになかっ
たのだが、時たま、少々飲みすぎた際に、上機嫌でジェイドに昔の自分の活躍ぶりを語った
り、逆に、昔の苦い記憶を思い出して、半ば泣いたような感じで愚痴を述べたりすることがあっ
た。

その日も、少々ワインを飲みすぎた。酔って上機嫌になったことが引き金となって、ブロッケンJ
rは、さらに晩酌を始めた。
ジェイドが自分の部屋で寝ようとしていたとき、ブロッケンJrがワインの瓶を持って入ってきた。
夜、ブロッケンJrがジェイドの部屋にやってくるのは、決まって、酔っているときであった。数え
るくらいしかないことだが、そのまま、ジェイドのベッドで眠ってしまったこともあった。
ジェイドはそれが煩わしくもあったが、そんなブロッケンJrを受け止めるのが、自分の義務であ
り、責任であるような気がするのであった。

「レーラ、今日は飲みすぎです。もう、ワインはやめましょう。」
ジェイドはそう言って、ワインの瓶を取り上げた。
う、うるひぇい!俺のワインだ!
今日は本当に酔っている。既に呂律が回っていない。こんなブロッケンJrは珍しい。
ジ・・・ジェイド。お、俺は、王位争奪戦で、あ、あの人のために、超人であることを捨てて、命
を捨てて、闘ったんだぞ・・・。
「ご活躍は聞いてますよ。すごかったですよねえ〜。とりあえず、これ、水飲みましょうね〜。」
ジェイドは、12〜13歳にして、既に、酔っ払いのあしらい方を知っている。不器用で真面目過
ぎるいつもの調子とはまるで変わって、赤ん坊をあやすように、ブロッケンJrに語りかけた。
あ、あの人は、俺をチームメイトに選んで、本当に良かったと言ってくれたんだぞ。
「本当に、そうだと思いますよ〜。レーラはすごいですね〜。」
王位争奪戦のブロッケンJrの活躍ぶりは、ジェイドはHFの授業でも、当事者であるバッファロ
ーマン先生から散々聞いていたし、ブロッケンJrが、こうして、酔っ払って過去の武勇伝を語る
のは、大抵、王位争奪戦であった。
そうだろ、そうだろ・・・。な、なのに・・・、あの人は、俺を置いていった・・・。俺ではなく、あいつ
と、行ってしまった・・・。
「レ・・・レーラ・・・。」

ジェイドは、酔っ払ったブロッケンJrの扱いには慣れていたものの、言葉を返すことができなか
った。
レーラは、前も一度、酔った時に同じようなことを言っていた。レーラは若い頃、リジェンド達と
の間で何があったのだろう・・・?レーラがお酒を手放せないのは、それとどう関係があるのだ
ろうか?自分には分からないが、むしろ、知ってはいけないことのような気がする・・・。でも、自
分はどうしたら、レーラの苦しみを理解してあげられるのだろう・・・。

「レ、レーラ、そうですよね〜。ひどいですよね〜。でも、俺にはレーラが世界で一番です。レー
ラと一緒なら、どこにでも着いていきます!」
ジ・・・ジェイド〜!俺は、お前と出会って、ほ、本当に良かった!
そう言って、ブロッケンJrはジェイドに頬擦りをすると、崩れ落ちた。
ジェイドはブロッケンJrを支えてベッドに寝かせると、ふと、先ほど取り上げたワインの瓶に目
が行った。瓶には、まだ半分ほど、赤ワインが残っていた。

レーラを時折上機嫌にさせたり、悲しませるこの薬は、いったい何なのか?

もちろん、ブロッケンJrは、子供には毒ということで、ジェイドにはアルコールを一切飲ませなか
ったし、ジェイド自身も、優等生過ぎるほど優等生であったため、禁忌を犯してその未知の液
体を飲んでみようなどとは、思いもしなかった。
しかし、その液体を飲めば、師匠の計り知れない内面を理解できるかも知れないという思い
が、ジェイドに、禁忌を犯させようとしていた。

毒なら毒で、死んでもいい・・・。レーラの心の闇を理解できないよりはましだ!
ふとジェイドは、まだ開けたばかりのワインの瓶を手に取り、残りの液体を、一気に飲み干し
た。

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