What's Your Poison? (1)

壮絶な闘いを繰り広げた入れ替え戦が終了し、重傷を負ったジェイドやキッド、クリオネ達も、
ようやく元気になって退院できることとなった。なお、スカーフェイス一人は、傷は完治していな
かったが、入院中に病院を脱走し、行方をくらましている。
そんな中、一期生と二期生合同の、非公式の慰労会が計画されていた。なぜ非公式かという
と、HFの生徒は未成年が多く、公式の慰労会では全くアルコールを飲むことができないからで
ある。それでは少々物足りないと感じた一部の生徒が企画して、どこか外の施設で行うとスキ
ャンダルにもなり兼ねないということで、マンタの肉ハウスで持込で宴会を行うことにしたのであ
る。

「というわけで、レーラ、今日はHFの仲間達と慰労会があるので、夕食はご一緒できません。
簡単なおかずは冷蔵庫に作ってありますので、食べてて下さい。」
「ジ・・・ジェイド、その慰労会っていうのは、アルコールは出るのか?」
「俺は分からないけど、遊び好きなマンタ先輩やキッド先輩が企画して、肉ハウスで行う以上、
缶ビールとか、ワインとか、色々持ち込んでくるかも知れませんね。」
「その慰労会、どうしても出なければならないのか?」
「レーラ、お、俺だって、出たくないんですよ。でも、みんながどうしても俺に来てくれと言ってる
し、俺も、ソーセージ持っていくこと約束しちゃったし・・・。」
ジェイドはそう言って、ソーセージが入っているらしい紙袋を見せた。

実のところ、ジェイドは慰労会には行きたくなかった。
もともと、一期生達のノリでドンチャン騒ぎをするのは性に合わない。いや、もっと大きな理由
がある。もう、あいつはいないのだ。あいつのいない慰労会に出席するのが、ジェイドには、た
まらなく後ろ髪引かれるのであった。そして、それこそが、現在ジェイドが欝状態に陥っている
理由でもあった。
一方、一期生や二期生の仲間は、あの入れ替え戦で、肉体的にも精神的にも非常にダメージ
を負ったジェイドに同情的で、今回の慰労会にジェイドをしきりに誘っていたのは、みんなでジ
ェイドを慰めて励ましてやろうという善意からであった。
しかし、ジェイドは彼らの善意は十分に分かってはいたのだが、それが却って煩わしかった。
今のジェイドは、確かに落ち込んでいて、意気消沈しているように見えるだろう。しかし、そのこ
とについて、みんなの認識と、ジェイドの気持ちとの間には、大きな隔たりがあった。
みんなは、ジェイドがスカーフェイスに見も心もズタズタにされた傷を負っていると思っている。
しかし、ジェイド自身がなぜ現在意気消沈しているのかというと・・・。

俺はなぜ欝なのか・・・。
その原因は、みんなが思うところのあいつに他ならないのだが・・・。でも、それは、あいつがリ
ングの上で俺にしたことでも、入院中の病院の夜に俺にしたことでもない。
それは、あいつが何も言わずに、病院を去ってしまったこと・・・。
HFに、もう、あいつはいないということ・・・。
でも、こんなこと、誰に言っても分かってもらえないだろうし、それ以前に、言いたくもない。

ジェイドは、思いをめぐらせる。
HFの仲間達の善意と、本当の自分の気持ちの落差。みんなは、自分を慰めてくれるつもりだ
ろうが、自分の内なる事実と異なる彼らの慰めを聞かされることほど、煩わしいことはな
い・・・。
一層のこと、自分が慰労会に出席することをレーラが強制的に止めてくれればどれほど楽なこ
とか・・・。

しかし、ブロッケンJrは言った。
「ジェイド、分かった。ただ、もし酒を出されても、お前は絶対酒を飲んではいかん。俺は何も法
律の話をしているのではない。お前は、アルコールアレルギーなんだ。飲むと命が危険だぞ。」
「え・・・?」
ジェイドは、不思議そうに首をかしげた。
「お前、以前一度、我が家にあった酒を誤飲したことあっただろ。多分、記憶にないと思うが、
お前は意識を失って、病院に連れて行ったら、医者に、お前はアレルギー体質で、アルコール
を飲むとショック死する可能性もあると言われたんだよ。それ以来、我が家には一切アルコー
ルを置いていない。」
「そ・・・そうだったんですか?」
ジェイドは、思い起こしてみた。確かに、家の酒を誤飲・・・というよりは、意図的に飲んでみた
のだが・・・したことはあった。その後のことは良く覚えていないが、あの時、医者に行った記憶
はなく、命の危険があったなど、思いもよらなかった。まあ、断片的にしか覚えていないので、
自分の記憶にないところで、そのように言われたのかも知れないが・・・。
「いいな、分かったな。」
ブロッケンJrは言った。その顔は、深刻な表情が漂っていた。
「は、はい。」
ジェイドは答えた。先ほど頭を巡ったかすかな疑念は、いつの間に消えていた。

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