Deja vu〜Feeling for You〜 (1)

イクス戦後に搬送された病院で、目の見えないジェイドの脳裏には、スカーフェイスに関する
数々の鮮明な記憶が巡っていた。
スカーからの「どうだい、ジェイド、一緒に練習っていうのは」の一言で、いとも簡単にタッグを組
むことになった自分・・・。
その昔、スカーには、身も心もズタズタに切り裂かれたことがあった。それでも、どういう訳かス
カーのことが気になって仕方なかった。ボロボロの体で、自分をボロボロにした張本人であるス
カーの手を握って激励したのは、周囲からは甘ちゃんだの優等生だの聖人君子など言われて
いたが、実のところは、ほとんど無意識に体がそう動いたからだ。そんなスカーは、病院で再び
自分を陵辱して、姿を消してしまった。
スカーが正義超人の仲間として再び登場した時、胸の高鳴りを抑え切れなかった。しかし、B
−エボのあまりのかっこよさに、自分が取り残された感じになり、dMP以来のケビンとの深い
絆をあれこれ想像しては、切なさに胸が締め付けられる思いだった。
そんなスカーからタッグの誘いを受け、小躍りして承知したのは当然と言えば当然だった。

既にジェイドが視力を失ったあとの出来事であるが、クロスボンバーによって顔を剥がれ、崩
れ落ちるスカー・・・。その姿を目にした訳ではないが、いや、目にしていないからこそ、スカー
がもたれかかった自分の右肩の感触が、より鮮明に残っている・・・。

「スカー・・・」ジェイドは呟いた。
スカーは、今どうしているのだろう?自分より、はるかに重傷を負っているはずだが・・・。
そんなスカーが、そもそもジェイドと会える状態であるかは分からないが、スカーに会いたい、
会って話がしたい、そんな衝動にジェイドは駆られた。

看護士が、今日最後の検温にやってくる。
看護士さん、俺の目、いつになったら見えるのだろう?
しかしジェイドはこの言葉を、恐くて口にすることはできなかった。代わりに、という訳ではない
が、口をついて出たのは次の言葉だった。いや、こちらのほうが、本当は、はるかに聞くのに
勇気が要る質問であったのだが。
「俺のパートナーだった、スカーフェイスのこと、分かりますよね。彼は今、どんな状態なのでし
ょうか?」
「スカーフェイスさんですね。大丈夫です。命に別状はありません。今夜はまだジェイドさんと同
じ階の○○号室にいますが、明日からは、下の階の、チェックメイトさん達と一緒の大部屋に
移られる予定です。」
命に別状はないと聞いて、ジェイドはとりあえずほっとした。しかし、顔のことは、やはり恐くて聞
けなかった。

看護士が立ち去ると、ジェイドは再び、スカーに会いたい衝動に駆られた。スカーが個室にい
るのは、今日まで・・・。というと、会って、心のうちを話せるのは、今日までだ。今、自分は目が
見えないが、同じ階の○○号室なら、何とか行けそうだ。
目が見えないと、聴覚や嗅覚といったその他の感覚が、より鋭敏になる。ジェイドは、看護士が
この階の検温を全て終えて立ち去ったのを察知すると、やおら起き上がって、手探りで○○号
室に向かった。

手探りで、そっと、○○号室と思しき病室のドアを開ける。スカーは寝ているのだろうか。寝て
いるスカーフェイスを起こしたくないので、なるべく物音を立てずに、ベッドに近づく。スカーが寝
ていたら、話ができなくてもいい。ただ、しばらく傍にいたい。
病室に入ると、かすかな呼吸音が聞こえる。ジェイドは、それがすぐにスカーのものであること
を確信した。
スカー・・・。ジェイドは音を立てずにさらに近づく。ベッドの周りを手探りをすると、スカーの手に
触れた。スカーの手は、少しひんやりとしていた。ジェイドは、白くて指がきれいで長い、スカー
の手が好きだった。

ジ・・・ジェイド・・・どうしてここへ・・・
突然、ベッドに横たわっている主が声を発した。
「す・・・すまん。起こしてしまった・・・。」
いや、丁度今、たまたま起きたところだ。

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