Sleeping By Your Side Sleeping By Your Side

ここは、一体・・・?

両国にある超人病院で、その晩、ジェイドは目を覚ました。

目、目が・・・見えない。
そうだ、俺は、イクスパンションズにマスク・ジ・エンドで目をやられて、そして、その後・・・。

ジェイドの脳裏に、スカーフェイスに関する数々の記憶が、走馬灯のように蘇ってきた。

「どうだい、ジェイド、一緒に練習っていうのは。」
スカーフェイスのその一言で、ジェイドは、いとも簡単に、彼と、タッグを組むことになった。
かつて自分を心身ともにズタズタに切り裂いたスカーフェイスからの誘いは、なぜかジェイドに
とって嬉しくてたまらなかった。

スカーフェイスが、正義超人の仲間として、デーモン・シードと戦うために再登場したとき、ジェイ
ドは、スカーフェイスの威風堂々として美しい姿に胸の高鳴りを抑えられなかった。しかし、悪
魔の胎内に入ることのできないジェイドは、彼と話もするまもなく、スカーフェイスは、旧友で、
実力ナンバーワンのケビンマスクとタッグを組み、そして、壮絶に散ってしまった。ジェイドは、
スカーフェイスを助けるどころか、彼と一緒に闘うことすらできなかった自分の不甲斐なさに、
忸怩たる思いを感じた。
スカーフェイスがリボーン・ダイヤモンドで復活した後も、ジェイドは、彼パートナーはケビンマス
クで、自分はいかなる点においてもケビンマスクに及ばないという観念に捉われ続けた。そして
それは、しばしば、ジェイドをやるせない思いにさせた。
スカーは、自分の手に届かない男・・・。
そう思うことは、ジェイドにとって苦しみであったが、それが苦しみであるのは、超人としての実
力と実績に関するコンプレックス以外の何かがある気がした。

しかし、20世紀の焼肉屋スカーフェイスに声を掛けられたとき、ジェイドの胸は高揚し、それ
が、ケビンマスクが不在の中での選択であることを鑑みることさえ不能にした。
ジェイドにとって、試合までの間に、スカーフェイスと二人きりで過ごした4日間の日々は、かつ
て味わったことのない喜びと驚嘆に満ち溢れていた。もちろん、ジェイドは今回の自分達に課
せられた使命は認識しており、一刻も早く、試合で結果を出さなければならないことは十分理
解していたが、一方で、こんな日が、いつまでも続いて欲しいと心のどこかで思ったりもした。も
っとも、ジェイドにはこの理由は分からなかった。

しかし、結果は・・・。

一度は悪の誘惑に負け、自分を見限ったスカー・・・。
しかし、再び正義超人に戻り、身を挺して自分をクロスボンバーから助けたスカー・・・。

既に視力を失った後の出来事であるが、クロスボンバーによって顔の皮を剥がれ、崩れ落ち
るスカーフェイスの姿が、ジェイドの脳裏に浮かんできた。
その姿を目にしたわけではないが、いや、目にしていないからこそ、スカーフェイスがもたれか
かった右肩の感触が、今でも鮮明に残っている。

「スカー・・・。」
自分よりはるかに重傷を負っているはずの彼は、今どうしているのだろう・・・。
自分は彼のために、一体何をすることが出来たのか・・・。
やるせない思いとともに、ジェイドは呟いた。

しかし、次の瞬間、ジェイドは、今いる病室に、人の気配を感じた。
体温、かすかな呼吸音、そして、消毒薬の臭いの中に微かに漂う体臭・・・。
それらは全て、自分がよく知った、懐かしいものであり、今、同じ病室にいるのが誰であるか
は、即座に分かった。

スカーがここにいる!自分のすぐ近くで寝ている!

その思いは、ジェイドに安堵と、胸の高揚を与えたが、同時に、別の不安をもたらした。

スカーは、大丈夫なのだろうか?
顔の皮を剥がされた超人は、一体どうなってしまうのか・・・。

ジェイドは恐る恐る、左手を伸ばした。
すぐ近く・・・1メートル足らずのところに、スカーは寝ているはずだ。
やがて、ジェイドの左手は、隣に並んでいるベッドの縁に触れた。ジェイドがベッドの表面に沿
って左手を滑らすと、すぐに、超人の手らしきものに届いた。それは、自分がかつて何度も肌を
合わせた、あの手であった。

スカー・・・。

ジェイドは、ゆっくりと、スカーフェイスの手に指を這わせた。
相変わらず、ジェイドの手よりは冷たいが、間違いなく、体温が感じられる。手首に触れると、
脈の拍動が感じられた。
ジェイドは、自分の左の掌をスカーフェイスの右手と合わせると、ゆっくりとそれを握り締めた。

スカーは生きている!そして、自分の横にいる!

ジェイドは今更ながら、喜びと安堵を感じた。
しかし・・・。

過酷なdMpの世界で育ち、自称「24時間臨戦態勢」のスカーフェイスは、今まで、ジェイドの横
で熟睡したことはなかった。
試合本番まで、泊り込みで練習をしていた間も、スカーフェイスはジェイドが気づかないような
些細な刺激に目を覚ました。
試合前日・・・つまり、練習の最終夜、ジェイドは、なぜか名残惜しさに、自分の横で寝ているス
カーフェイスの顔を見つめていた。しかし、そんな自分の気配は、スカーフェイスにすぐに察知
されてしまった。その時ジェイドは、バツの悪さにうろたえたが、スカーフェイスがあっさり流して
くれたので、何とか救われた気がした。

こんなことをして気づかないなんて、スカーはやはり重体なのだろうか?

手を握っても目を覚まさないスカーフェイスの容態に不安を感じながらも、他方で、意識がない
間は痛みも感じない以上、重傷のスカーフェイスには、ゆっくり寝ていて欲しいと思わずにいら
れなかった。

スカー・・・。今だけは、ゆっくり休んでいてくれ。

ジェイドはそう言い聞かせると、スカーフェイスの手を握ったまま、見えない目を閉じた。
すると、意識のないはずのスカーフェイスの手に力が入り、ジェイドの手を握り返したかのよう
に感じられた。
ジェイドは、包帯に覆われた目が熱くなるのを感じた。

END

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