われても末に (1)

「久しぶりだな、キン肉マンソルジャー。いや・・・アタル殿。」

キン肉星超人評議会にて、突然天井に現れたその男の姿に、アタルは驚いた。

「ニ・・・ニンジャ、お前は、ザ・ニンジャなのか!」
「さよう、拙者だ!」
「10年ぶりだな。」
「アタル殿・・・いやあえて、ソルジャーと呼ばせてもらおう。変わらぬな・・・おぬし。」
「お前こそ、このはちきれんばかりの筋肉は、まだまだ鍛えこんでるな・・・?」

アタルはそう言って、ザ・ニンジャの体に触れた。
10年前に別れるまで、かつて、何百回、いや、何千回と触れ、隅々まで知り尽くしたその
体・・・。ザ・ニンジャの体温がアタルの指先に伝わると伴に、アタルはその指先から、在りし日
の情熱が蘇ってきて、自然と鼓動が高まるのを感じた。
しかし・・・。

「ソルジャー、おぬし、万太郎の『火事場のクソ力修練』の対戦相手に、まだかノーリスペクトを
牢から出したのかーっ。」
ザ・ニンジャはそう言って、アタルの胸座を掴んだ。
「どうした、ニンジャ、落ち着け。」
「やめなされ、ニンジャ殿ーっ!」
「ここは神聖な議事堂内ですぞーっ!」
周囲にいた者たちは、ザ・ニンジャを止めようとした。しかしながら、普段は控えめな性格と言
われているザ・ニンジャが、仮にもこの惑星の大王の実兄であり、大王が頭の上がらないアタ
ルに対して、遠慮ない物言いをする様子に、やはり、巷で噂されている二人の只ならぬ親密な
関係は、本当であったと実感せずにはいられなかった。

「あのハンゾウを刑務所から出すとは、ソルジャー・・・おぬしがそこまで浅はかで軽率な男だと
は思わなかったぞ。」
アタルがザ・ニンジャとの再開の感慨に浸る間を与えないかのように、ザ・ニンジャはアタルに
詰問を続けた。
「ハンゾウ!そうか、確か10年前、ノーリスペクトのハンゾウを超人刑務所送りにしたのは、
我々超人起動警察。その班を指揮していたのが、ザ・ニンジャ!・・・お前だったな。」
アタルの目が宙を泳いでいる。10年ぶりにザ・ニンジャと再会したアタルにとって、ザ・ニンジャ
の剣幕は、周囲の人間が想像するところの「痴話喧嘩」どころではなかった。
よくもこんなとぼけたことが言えたものだ。アタルは、その場凌ぎに言ったにしては余りにも能
のない自分の言葉を、後悔した。

「拙者とコクモは、指揮官と配下以上の関係だった。コクモは拙者が5年以上も目にかけてい
る、一番の弟子だった。そう。やつは拙者にとっては息子のような存在だったのかも。」

「コクモ」という名前が出たとき、憤ったザ・ニンジャの目に、一筋の哀しみの色が浮かんだ。そ
してそれは同時に、アタルを複雑な思いにさせた。
「指揮官と配下以上の関係だった」とザ・ニンジャ自らが語るコクモの関係が、どの程度のもの
であったのかは、今となっては分からない。実際、コクモが上官のザ・ニンジャを慕っていたらし
いことは確かであったが、アタル自身は、自らの賢明な女房役を勤め、かつてはあの悪魔将
軍の寵臣も勤めていたザ・ニンジャが、仮にも情に流されて、一配下のコクモの相手をするな
どとは想像できなかった。だから、アンタッチャブルにおいて、コクモのことを、いわば「恋敵」と
して警戒したことなどは、一度もなかった。
しかし、アタルにとって一つ言えることは、コクモの殉職によってザ・ニンジャとの20年来に及ぶ
関係が一つの区切りを迎えたことであり、それは、ザ・ニンジャとコクモとの関係がいかなるも
のであったにせよ、否定できない事実であった。

ニンジャ・・・お前は、何を求めているのか?
万太郎を待ち受けるハンゾウの元に、ザ・ニンジャが怒涛のように去っていった後、キン肉星
超人評議会に残されたアタルの胸に、様々な想いが去来した。

続く

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