Open Arms

今、こうしてこの暗がりの中で、お前が俺の側に横たわっている。
触れ合う体の部分から、お前の胸の鼓動を感じている。
お前は時々、甘えたような声で俺の名を呼ぶ。
つい先ほどまでの、「孤高の悪魔」からは、想像できないようなお前・・・。
こんなにも愛しいお前なのに、なぜ俺たちは、30年以上も引き離されていたのか・・・。

サンシャインの脳裏に、およそ30年前の記憶が蘇った。
俺たちはタッグを結成し、悪魔にも友情があることを確認しあえたはずだった。それなのに、あ
いつは、ソルジャーという、その時点ではどこの馬の骨かも分からななかった男に誘われて、
引き止める俺の手を振り切って、正義超人入りしてしまったのだ・・・。
あいつが正義超人入りすることになったのは、タッグ・トーナメントでザ・マシンガンスとの闘い
において、サムソン・ティーチャーへの愛が蘇ったからなのだろう。俺は、お前との間に悪魔の
友情・・・いや、愛情?・・・が実ったと、信じてやまなかったのだが・・・。
思えば、俺は、ずっとあいつを追っていた。生まれながらに高貴で美しい悪魔・・・。俺は、お前
のためなら、自分の命を捨てても惜しくなかった。しかし、お前は、悪魔騎士時代には、将軍様
の寵愛を受けており、将軍様が倒されてからも、お前の心にいたのは、子供のころの憧れであ
ったサムソン・ティーチャーであった。俺は、いつかはお前に俺の想いが通じることを信じて、ず
っとお前に尽くしてきたのであったが・・・。
その後、人づてに、お前が同族の美しい女性と結婚したことを聞いた。お前が、将軍様に愛撫
されるのを想像するのも辛かったが、お前が、誰かをその6本の腕で愛撫をするのを想像する
のも同様に辛い話であった。俺は、もう、お前のことは考えまいと思った。
俺は孤独の中、毎日、串カツ屋で日本酒を浴びるように飲んでいた・・・。10年前に、弟子を見
つけるまで・・・。そして、その弟子が、かつてのお前のように、俺を捨てて、正義超人の元に走
った後も・・・。

サンシャインは、隣で寄り添うように横たわっているアシュラマンを、優しく見つめている。アシ
ュラマンは、ジェネラル・ストーンによって若返った肉体から、既に本来の老体に戻り、右足を
失っている。その体を、やはり30年前と比べてみる陰もなくやせ衰えた自身の体で、そっと抱
きしめる。
そして、つい半月前に、30年ぶりにアシュラマンと再会したときのことを思い起こした。

30年ぶりに再会したあいつが、30年前と同じ若さと美しさのまま登場したのに、俺は衝撃を
覚えた。ああ、あれこそが、俺が追い続けた、高貴で美しい悪魔!
そして、俺は、今は正義超人の側についている、かつての弟子を見た。
そして俺は、幼少時代のそいつをdMPのゴミ捨て場で拾ったとき、なんとも言いがたい興奮と
喜びを覚えたのは、そいつの端正な顔に、あの人の面影を感じたからかもしれないということ
に気づいてしまった。俺が、そいつを気品のある、高雅な悪魔に育てようと手塩をかけてきた
のも、俺は、そいつの中に、かつて手に入らなかったあの人の姿を見ていたからかもしれな
い。そう思い至ったとき、俺は、弟子に対して限りない罪悪感を感じた。
俺は、あいつをあの人の代わりになるものとして、育てようとしていたのだ。だから、あいつが、
俺なりの愛情を注いで育ててやったおれに反抗し、さらに、万太郎に負けた後、それでも献身
的に介護をしてやった俺を捨てて、正義超人の元に走ったことに対して、俺は決して文句を言
える立場ではなかったのだ・・・。
だが、その罪悪感も、すぐに、畳み掛けるように襲ってくる興奮によってどこかに押しやられて
しまった。あの人の竜巻地獄、怒りの面、アシュラ・バスター・・・どれもが、俺にとって、懐かしく
てたまらなかった。それは、俺の青春・・・。そして、俺が本当に輝いていたときの記憶・・・。
しかし、同時に俺は、一抹の寂しさを感じた。
30年前と変わらない、若くて美しい肉体のお前・・・。それでいて、その頭脳は熟練した58歳
の、コンプリートな悪魔・・・。対する俺は、すっかり衰えた、老体をさらしている・・・。お前は、3
0年前以上に、俺の手の届かぬところに行ってしまったのかもしれない。

しかし、その2週間後に、お前の変貌の理由が分かった。お前が、コンプリートな悪魔にならざ
るを得なかった、哀しい事情・・・。俺は子供が好きだった。いや、今でも好きだ。俺を侮辱して
も、俺を裏切っても、不思議と憎めなかった。だから、お前の哀しみは、手に取るようによく分
かる。

そして、お前は、かつてお前を寵愛した将軍様に反抗し、気高い悪魔としての矜持を保った。
お前は、本当に美しい。お前と一緒なら、地獄の果てまでもお供しよう。

今、お前はこうして俺の横にいる。
お前はもう、先ほどまでの30年前の若い肉体ではなく、無残にも、その右足を失ってしまった
が・・・。
しかし、そんなことはどうでもいい。いや、コンプリートな眩しすぎるお前よりも、むしろ、今のお
前のほうが愛しい。お前は、やっと俺の横に並んでくれた。俺を必要としてくれた。俺たちはこ
れからずっと一緒だ。二人で一緒に、年をとっていこう・・・。

END

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