At Hospital(After Replacement Matches) (13)

どのくらい、時間が経っただろうか。スカーフェイスの横で、ジェイドがぐったりとして寝ている。
ベッドの周りは、いつの間にか綺麗に片付いている。
スカーフェイスは、ジェイドの金髪が自分の胸に触れているのを感じる。思わず、手をジェイド
の頭に回し、その感触を楽しむ。

ジェイド、俺はもう行かなければならないぜ。
スカーフェイスは、ぐっすり眠っているジェイドの寝顔を見つめる。
ジェイド、今度俺と会うときまでに、強い大人になっていろ。
「う〜。」
ジェイドが寝ぼけて、なにか呟いている。スカーフェイスは、眠っているジェイドの唇に、最後の
口付けをする。

スカーフェイスの去った病室は、すっかり静まり返っていた。ジェイドは、金髪を枕の上に漂わ
せながら、朝までよく眠っていた。その顔は、心持ち、紅潮していた。

*****

翌朝、看護士が回ってきて、ジェイドは目を覚ました。体中に、疲労感がまだ残っている。布団
を被ってぼうっとしていると、昨夜の記憶が蘇ってくる。
スカー・・・。
ジェイドは、スカーフェイスを思い出しながら、自分の下腹部に手を当てる。そして、自らの下半
身が、再び自分の意志と無関係の生き物になっていくのを感じる。

その時突然、病室の外が何やら騒がしいことになっているのに気づいた。
「悪行超人のスカーフェイスが、病院を脱走した!」
廊下で誰かが叫んでいる。

嘘だろ・・・。スカー、お前は行ってしまったというのか!
ジェイドは、愕然とする。10日足らずの、スカーフェイスと過ごした時間が、蘇ってくる。
あんな時間は、もう二度と過ごせないのか・・・。
ジェイドの両目に、涙があふれてくる。抑えようと思っても、涙は抑えることが出来ない。ジェイド
は布団を頭から被った。声を立ててはならない・・・。
スカー、何故行ってしまったんだ。折角、心が通じ合えたと思っていたのに・・・。
ジェイドは布団の中で、まさに、血の涙を流していた。

*****

朝、9時になると、ブロッケンJrがいつも通り見舞いにやってきた。

いけない、こんな顔、レーラに見られてはならない。
ジェイドは、ブロッケンJrが来ても、頭から布団を被ったままでいた。

「どうしたジェイド、体調でも悪いのか?」
「・・・」
ジェイドは答えない。
「そういえば、あのスカーフェイスが、病院を脱走したそうだな・・・。」
「・・・」

この日以降のジェイドのあまりの落胆振りは、ブロッケンJrやHFの教官、生徒、さらには肉屋
の夫妻の間で数々の憶測を呼んだ。一説に、ジェイドは病室でスカーフェイスに屈辱的な行
為・・・「レイプ」されたのではないかとも、言われていた。
当たらずとも遠からず・・・しかし、ジェイドにとって、その本質はまるで違っていた。

俺は、あの夜スカーにされたことではなくて、スカーが俺に黙って・・・あんなに心が通じている
かと思ってたのに・・・病院を出て行ったのが無念でたまらない。
また一緒に、HFの同期としてやり直せると思っていたのに・・・。
これからも、ずっと一緒にいられると思っていたのに・・・。

今回の入替え戦で、心身ともにスカーフェイスにズタズタにされたジェイドは、皆の同情を呼
び、皆、ジェイドを気遣っていたが、誰一人として、ジェイドの本当の心を理解する者はいなか
った。

END

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