The Night Before The Tournament (3)

「ジ・・・ジェイド、お前、さっきから何やってんだ。明日試合だぞ。早く寝ろ。」
ジェイドが顔を近づけてきたので、スカーフェイスはたまらなくなって、目を開けて言った。
「ス、スカー、ごめんよ。」
ジェイドは、バツが悪かったように、オロオロしている。
「でも、言い訳に過ぎないかもしれないけどよ・・・。この戦いは、生きるか死ぬかの命を賭けた
戦いだって、タイムマシンに乗るとき、お前が言ってただろ。もちろん、お前とのタッグだし、明
日は勝つと思ってるさ・・・。でも、そんな命を賭けた重大事の前だから、お前の綺麗な顔を、目
に焼けつけておきたかったんだ・・・。」
「ケ・・・。もう散々、俺様の顔を拝んだろ。だから、もう寝ろ。」
「わ、分かったよ・・・。スカー、おやすみ。」
ジェイドは、布団に入って、目を閉じたようだ。
スカーフェイスは、そんなジェイドの顔を見つめる。フサフサの金髪。ちょっと子供っぽい、でも
端正な顔・・・。
ジェイド、お前は、本当に面白いヤツだ。お前のことは、バルブを手に入れて、コンプリート超
人になった俺様が、後でたっぷり食ってやるぜ。何なら、お前に食われてやってもいいんだぜ。

ジェイドがすっかり大人しくなったので、スカーフェイスは、再び目を閉じた。
正義超人としての使命を果たすための、命を賭けた戦い・・・。確かに俺は、このトーナメントに
ついて、そのように認識していた時期もあった。しかし、今の俺の目的は、バルブを手に入れて
コンプリート超人になること・・・。
コンプリート超人・・・。あらゆる存在を超越した、完全無比な超人・・・。
「正義」「残虐」「悪魔」「完璧」「時間」が持ちうるものを、全て兼ね備えた究極の超人・・・。
しかし、俺は、コンプリート超人になって、一体、何を求めているのか・・・。

コンプリート超人になれば、この世界が我が物になり、全てを手に入れられるのか・・・。
全世界を手に入れたら、俺は何をしたいのか・・・。
"complete"・・・その言語的な意味は、最高の状態に達した、完全無比で、全てを兼ね備えた
存在ということだ。
俺は今まで、欲しい物は全て力づくで手に入れてきた。そしてその先に、何があったのだろう
か・・・。
俺は、本当は何を求めているのだろうか・・・。

ふとスカーフェイスは、我に返った。
隣に寝ているこいつのせいで、俺は少々余計なことを考えてしまったようだ。
俺たちは勝つ!そして、バルブを手に入れる!それが全てだ!
スカーフェイスは、今しがた脳裏を駆け巡った問いを、打ち消した。

・・・・・・・・・・

トーナメントは、スカーフェイスにとって、いくつか想定外の事態が生じた。
一つは、若い頃のブロッケンJrに会って、ジェイドがすっかり舞い上がってしまったこと。そし
て、ジェイドの精神はスカーフェイスのマインドコントロールの及ばぬところとなった。
もう一つ、そして最大の誤算は、タイムパラドックスにより、ジェイドがベル赤を失ったこと・・・す
なわち、ジェイドの戦闘能力が著しく下がったことだ。
そして、最後の誤算は・・・。それは、スカーフェイス自身にあった。
スカーフェイスは、一度は見限ったジェイドを助けるため、自ら顔剥ぎクロスボンバーの犠牲と
なった・・・。そのような行動は、スカーフェイスにとって、まるで想定外のことであった。

しかし、一つだけ、良い意味での誤算もあった。
最後まで甘ちゃんの優等生だったジェイドは、試合中に弱点でしかなかったその聖人君子ぶり
により、見事に顔剥ぎから免れたのである。ジェイドの代わりに顔剥ぎの憂き目に遭ったスカ
ーフェイスにとって、その結果は、当然望むところであった。

END


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