It Shouldn't Be Just a Memory... (4)

一人、ベッドに入ったブロッケンJrは、すぐには眠れずに、あの夜のことを思い出す。
あの人が自分に近づいてきて、唇を覆い、そしてそれから・・・。
あの夜、あの男が自分にした行為を一つ一つ思い出しては、自らの手でなぞってみる。唇、首
筋、胸、脇腹、下腹部・・・そして、そのさらに下にある、あの夜、その存在を改めて改めて認識
させられた暗い洞窟。あの男が自分にした通り、自分の指でなぞってみる。そして、いつしか深
い快楽に身を落とし、そのまま果てる・・・。
あの日以来、自宅にいても、滞在先のホテルにいても、こんな夜が、何度あったことだろう
か・・・。

ブロッケンJrにとって、あの夜は、まさに「始まり」であった。想いが最高潮に達したあの人との
関係が、あの日から、新たな段階に進んで、そして、そのままずっと続くものだと思っていた。
その男は、確か、「思い出」という言葉を使った。しかし、未曾有の興奮状態にあったブロッケ
ンJrは、その男の真意を、その言葉尻から読み取ることはできなかった。そもそも、ブロッケン
Jrにとって、あの夜は、到底、単なる「思い出」にできるものではなかった。
悲劇は全て、そこから始まった。

迷彩服の男は、その後、自分に何の連絡もなく、あの夜名古屋の同じホテルにいた別の男と
アンタッチャブルという組織を結成し、去っていった。二人の関係について、想像する気にもな
らないが、夫婦同然の仲だという言う噂話が、こちらは望んでもいないのに時折勝手に入ってく
る。自分の中で、何かが崩れた。何もかも、もう、どうでも良くなった。

あの人は、俺を誘って本当に良かったといってくれた。
それなのに、なぜ、何も言わずに去ってしまったのか・・・。
なぜ、アンタッチャブル結成に、俺を誘ってくれなかったのか・・・。
心の中でいくら問うても、答えは返らないし、答えてくれる人もいない。

あの時、確かに俺はあの人に、祖国に戻って、祖国の平和に貢献するつもりであるようなこと
を言った。でも、本当は、あの人とともに行たかった。あの人が俺を必要としてくれたら、「ブロ
ッケン一族の使命」なんぞ、俺にはどうでも良かった。俺は、あの人にどこまでも付いて行っ
た・・・。
あの人に、一言でも本音を伝えられなかったのは俺の弱さであり、不器用さであった。
だから、これは俺自身が招いた結果・・・。
でも、そもそも、あの人は、俺が追ったら、果たして本当に俺を受け入れてくれたのだろうか?
それが恐くて、俺は余計、あの人に一度でも本心を打ち明けられなかった・・・。
そして、あの人は、俺を置いていったことに対して、俺が感じている痛みの百分の一でも感じる
ことはあったのだろうか・・・。

事情を唯一知っているバッファは、俺を慰めてくれた。バッファの優しさに任せて、恋人同然の
関係になったこともあった。
でも俺は、そんなバッファに頼り切っている自分が情けなくて、引き止めるバッファの手を振り
切って、一人祖国に帰った。
しかし、そこには、俺の人生に輝きを与えるものはもはや存在しなかった。
あの人がほんの一年前に俺を誘いに来た、同じベルリンの町だというのに・・・。
あの時の、一年前のベルリンの町は、非常に美しかった・・・。

**********

その後、祖国に戻ったブロッケンJrは、やはり生き甲斐を見つけることはできず、定職も持た
ず、重度のアルコール依存症となる。そしてそれは、翡翠色の瞳と美しい金髪を持つ少年と出
会うまで、20年間続いたのであった。

END

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