What's Your Poison? (4)

「せ、先生、夜分大変申し訳ない。子供が、ワインを誤飲して、今ようやく大人しくなって寝てい
るが、急性アルコール中毒かどうか心配なので、一応、診に来てくれませんか。」
部屋を出たブロッケンJrは、かかりつけの医師に電話した。もう、夜の11時をまわっている。

ブロッケンJrは、自分の経験上、急性アルコール中毒への対処の仕方は、十分知っているつ
もりだった。あの状態なら、嘔吐物を咽喉に詰まらせることさえなければ、大丈夫なはずだ。そ
れなら、自分があの部屋に朝まで一緒にいて、ジェイドの様子を見ていてやれば、何ら問題は
ないはずなのに・・・。
そうできなかったのは、あの部屋にあのままいて、少女のような金髪の少年と禁忌を犯さない
自信がなかったからか・・・?誰か第三者を呼ぶことによって、一度冷静になりたかったから
か・・・?

20分位して、医師が到着した。
「もう、ブロッケンさん、こんな夜中に困りますねえ。」
そう言いながら、医師はジェイドに近づいた。
「それにしても、可愛いお子さんですねえ。男の子と伺ってましたが、寝顔だけ見ると、年頃の
少女みたいですね。ご養子なのでしたっけ?」
「まあ、そんなところです。」
医師はジェイドを診ると、続けて言った。
「このまま朝まで眠っていれば、大丈夫ですよ。ただ、お子さんが吐いたりした場合、嘔吐物を
詰まらせないように注意してくださいね。これというのも、ブロッケンさんが、あちこちにお酒を
おいてあるからですよ。お子さんが家にいるなら、十分注意してください。これに懲りて、もうお
酒はやめましょうね。」
この医師には、以前何度か、アルコール依存症の相談をしたことがあったのだった。
「重ね重ね、申し訳ありませんでした。」
ブロッケンJrはそう言って、医師を玄関まで送っていった。

医師が帰った後、ブロッケンJrは、再びジェイドが寝ている寝室に入る。
少し、気持ちが落ち着いた。ジェイドが吐いたときのために、傍にいてやろう。
ブロッケンJrは、寝室に居間から長いすを持ってくると、それをベッドの横に付けて、自分はそ
の上に横になった。

それから、何時間たったのだろうか。
部屋に朝日が差し込む眩しさに、ブロッケンJrは目を覚ました。
ジェイドがすぐ横のベッドに寝ている。吐いた形跡はない。
「ジ・・・ジェイド、大丈夫か・・・?」
ブロッケンJrがカーテンを開け、ジェイドの顔を覗き込む。
突然明るくなった部屋に、ジェイドも目覚めたようだ。
「う、う〜ん。あ、レ、レーラ、おはようございます。なぜここに・・・?」
「ジェイド、お前、覚えていないのか・・・?」
そういえば、俺、昨日の夜、レーラの話を聞いていて、レーラのワインを飲んでしまった気がす
るが、その後どうなったのだろう・・・?
ジェイドが首をかしげていると、ブロッケンJrは続けた。
「ジェイド、頭が痛かったり、気分が悪かったりはしないか?」
「う、う〜ん、ちょっと体が重いような気がしますが、頭も痛くありませんし、吐き気もしません
よ。」
こいつは、実は結構、アルコールには強いのかも知れない・・・。
ブロッケンJrはそう思いながら、言った。
「ジェイド、俺が悪かった。もう、アルコールは飲まないから、俺を許してくれ。」
「え、レーラが何の悪いことをしたのですか?レーラは俺の尊敬する、大切なレーラですよ。」

この日以降、ブロッケンJrの家庭からは、アルコールは消えることとなった。
ブロッケンJrは、リジェンドと再会後は、バッファローマンと時々外で飲酒することはあったが、
自宅で、ジェイドの前では、一切飲酒しなくなった。

ブロッケンJrにとって、あの夜の出来事は、自身への戒めであるとともに、禁忌を犯す誘惑に
駆られた、衝撃の出来事でもあった。もし、自分の心の闇に対するジェイドの悲痛な叫びを聞
かなければ、本当に禁忌を犯していたかもしれない・・・そう思えて、仕方がなかった。
ジェイド、お前は、人前で絶対に酒を飲むなよ・・・。
ブロッケンJrはそう思いながら、ジェイドを送り出した。

ジェイドが肉ハウスに着いたとき、既に、先に来ていた仲間達は盛り上がっていた。
「ジェイド、待ってたぞ!」
マンタが言う。
「ジェイド、何飲む?」
カゼルが聞いてくる。
「俺、ジュースで・・・。」
「お前、相変わらず優等生だなあ。今日は、ビールもワインも、たっぷり用意してあるぜ!」
「いや、俺、アレルギー体質なんだって。レーラが言ってた。」
「ドイツ人の癖に本当かよ?お前、また騙されてるんじゃないか?」
ジェイドは一瞬、自分の記憶と、師匠の証言が微妙に食い違っていたような気がしたことを思
い起こした。しかし、先ほどの、ブロッケンJrの深刻そうな顔を思い出して、その考えを否定し
た。
「違う、レーラはそんな人じゃない!」
そう言って、ジェイドは、オレンジジュースを手にした。

END

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