Der Tod in Raptus? (4)

少年の家族が戻ってきたことに対して、言葉で言い表せない安堵を感じた私は、その夜は、部
屋で落ち着いた気分だった。久しぶりに、もって来たパソコンを開けて、インターネットに接続し
てみた。
キン肉星の王政関係者からのメールは届いていないようだ。とりあえず、自分が近日中にキン
肉星に戻る必要がないことに、ほっとする。しかし、一応、キン肉星で何か変化があったか気
になったので、キン肉星で発信しているニュースを検索してみた。

突然、観光客への注意警報が目に入る。
「○月○日・・・あの一家が、クルージングに出た前日だ・・・ラプツス星にて、禁止されている核
実験が行われた疑いが持たれている。放射能漏れの可能性がある。現在、詳細を調査中だ
が、ラプツス星への渡航は、事実が解明するまで控えるべきである。また、現在ラプツス星に
滞在している者は、早急に出星することが望ましい。」
私は、一瞬我が目を疑った。この星が、核実験により、放射能に犯されている・・・?一昨日の
夜に起こった地震は、その影響によるものなのか?
この星では、この件について、どうなっているのだろう。私は、この星のサイトも検索してみる。
ラプツス星の言葉はよく分からないが、自動翻訳機能で、大体の意味を取ることは出来る。し
かし、1時間近く検索してみたが、どこにも、それに関する情報は見当たらなかった。
私は、キン肉星の科学技術省の関係者に、詳細を照会したメールを送ってみた。もちろん、自
分がまさにラプツス星にいることについては、隠しておいた。
こんな形で、この星を去らなければならないとは・・・。そして、あの一家とも別れを告げなけれ
ばならないとは・・・。
私は、あの一家に、この情報を伝え、この星を去ること勧めるべきだろう。他の滞在者、さらに
は、この星の住人にはどうしたらよいのだろう・・・。この星の住人全員が、一斉にこの星から
退去することなど、不可能だ。しかも、このニュースはまだ確実な情報は解明しておらず、ま
た、仮に核実験が行われていたとしても、その影響の度合いについては、判明していない。中
途半端な情報を流して、この星の住人をパニック状態に陥れることは、果たして許されるのだ
ろうか。
とにかく、キン肉星の科学技術省からの回答を待ってみよう。そして、この星の公式見解も確
認してからにしよう。
私はそう考えるに至って、その夜はもう眠ることにした。もっとも、ちっともよく寝ることは出来な
かったが。

翌朝、朝食のために1階に下りた際に、ホテルのフロントにこの件についてそれとなく尋ねてみ
た。
「え、そんなニュース、聞いたことありませんよ。3日前の地震は、単なる地震でしょう。」
私は、人が嘘をついているかどうか、凡そ見抜けるつもりだが、フロントの従業員が、嘘をつい
ているようには到底思えなかった。本当に、知らないのだろう。
その日は、わざと外出して、行く先々の店で、同じようなことをそれとなく聞いてみたが、やはり
回答は同じだった。
昼前にホテルの部屋に戻り、パソコンを開けてみると、キン肉星の科学技術省の事務次官か
らの回答が届いていた。
「閣下からご照会頂きました件につきましては、まだ、我々の方では正確な情報は得られてい
ません。ただ、その日に各地で地震と津波が起こり、その直後から、放射性物質の濃度が上
昇しているようです。ただ、ラプツス星のどの地域で特に高濃度か等の情報については、再度
調査しないと判明しません。なお、我々が正確な情報を得るのに苦労している理由は、マッス
ル星の大国間で政治的対立があり、両国とも、独裁的で、機密主義的であるため、当事者か
らの正確な情報が一切得られないためです。」
私は、少々落胆した。こんな不確かな情報では、私はどのように対処したらよいのだろう?私
は、再びこの星のサイトを検索した。
すると、本日、新しいニュースが入っている。○○国で精密機器が一斉にダウンしたので、○
○国間の航空便、及び、○○国から宇宙への渡航便は、全て欠航になっている、とのことであ
った。
私は、再びこの星に関する情報を調べてみる。キン肉星の科学技術省の事務次官からの回
答の中にあった、対立している2大国とは、どうやら、○○国と××国のようだ。そしてまた分
かったことは、宇宙への渡航便があるのは○○国だけで、私のように自分の宇宙船を持たな
い一般の観光客は、○○国経由で出星するしかないらしい。
だとすると、○○国への移動、及び、○○国からの出星が不可能になった現状では、一般の
観光客、いや、それどころか住人が、この星を出るのは事実上不可能ではないか!
私は、この星の地図を見る。○○国とここのリゾート地は、3000km以上離れている。この距離
が、近いか遠いかは、何とも判断が難しいが、3日前に地震があったとき、地上で爆発があっ
たとは思えない。仮に、実験が行われていたとしても、地下か、はるか上空だ。そうだ・・・確
か、上空500km付近で爆発した場合、地表には、放射能ではなく電磁波が降り注ぐので、パソ
コンなどの精密機器が一斉にダウンするときいたことがある。
私の中で、一つのストーリーが出来上がった。これは、核実験ではなく、政治対立している××
国が、○○国のインフラのダウンによる政治的・経済的混乱を狙って、上空500km付近で核爆
発をさせたものだ。ただ、この場合、地表に降り注ぐのは電磁波であるので、放射能と比べる
と生体への影響は雲泥の差である。しかも、私が滞在しているこの地ではパソコンがダウンし
ていないことを考えると、ここには、電磁波さえも降り注いでいないことになる・・・。
私の頭から、不安が和らいでいく。
大丈夫だ、ここにいる限り、特に命に別状はない。
もはや私には、そうではない事態を想定することはできなかった。

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